最終的には対米批判や不信感が高まる恐れも
安全保障は、国と国の信頼関係を支える最も重要な要素だ。それがあるからこそ、多くの日本企業が米国に拠点を構え相互に経済成長の果実を享受できる。政府は米国に、安全保障面を基礎にした関係の強化が両国に実利をもたらすことを丁寧に説き、賛同を得ていくことに注力すればよいだろう。
別の見方をすれば、米国が国家間の連携強化に背を向け始めると、世界経済全体に無視できない影響が生じる。すでに米中の通商摩擦は世界全体に張り巡らされたサプライチェーンの混乱を引き起こしている。それは、各国経済の経済成長率を低下させ、不満を増大させるだろう。最終的には対米批判や不信感が高まる恐れもある。
わが国は、米国の世論に向かって、安全保障面での関係を強固にしつつ多国間の自由な貿易と投資環境の整備が世界経済の成長に重要なことを発信すべきだ。そのために政府は、世界経済の成長を支えるアジア新興国などから「安全保障面では米国との関係を基礎とし、多国間の連携を推進することが重要」と、より多くのバックアップを得ていく必要がある。
そうした取り組みに併せて政府が能動的に国内の構造改革を進めることが、わが国の国益を高め実利を得ることにつながるはずだ。
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。