99%の準備はムダになるが、1%に備える

まず、この随行秘書は、僕がレセプションの途中にトイレに行くことを事前に想像したわけです。「大」の用を足すことも想像した。そして僕がどこのトイレに行くかわからないので、周辺のトイレをすべて確認したのでしょう。そうすると、トイレットペーパーがないことがわかった。そこで随行秘書は、ホテルのフロントにお願いしたのか、スタッフにお願いしたのか、とにかくトイレットペーパーを事前に用意したわけです。

あらゆることを想定して事前に準備をしていたのですね。

そこまで準備をしていても、僕がトイレに行かなければ、この準備は無駄になります。

起こりうるあらゆることを想像すると、準備の数は一万にも、二万にもなるかもしれません。たまたまそのうちの一個が活きるかどうかという程度で、一万の準備をしてもすべてがムダになることもあります。おそらく99%の準備はムダになるはずです。

それでも、たまたま一個、その準備が活きれば、大きな効果があります。僕のトイレの件はまさにそうで、僕は「すごいな。よくここまで準備してくれていたな」と感心しました。

ムダな努力を惜しまずできるかどうか

さらに、こういう準備をしているということは、仕事をするうえであらゆる準備をしている人なんだと感じました。この随行秘書は、僕に対してだけでなく、いつも想像力を最大限に働かせて準備をする人だったのだと思います。僕は、そのことを幹部に話しました。僕が知事を辞めたあとに、その随行秘書は主要ポストに栄転していました。

想像力を働かせることのできる人は、仕事がうまくいきます。そして、誰からも認められます。ただし、ムダになる努力を惜しまずにできるかどうかです。

ムダになるかもしれない準備を完璧にしておく。織田信長が豊臣秀吉を評価したのも、そういうところだったのではないでしょうか。

多くの人が頭を悩ませるのは、「上司が自分の提案を聞いてくれない」ということでしょう。新しいことにチャレンジしたくても、なかなか提案が通らない、自分の考えが理解されない――。

もちろん上司の資質もあるかもしれませんが、自分の提案を通したいなら、まずは相手の思考回路を知ることです。そのことによって、適切な対策を講じることができます。冒頭の、いかに想像力を膨らませられるか、につながる話です。