上司から「仕事ができる」と評価される人は、どこが違うのか。元大阪市長の橋下徹氏は「上司を『忖度』できているかが重要です。つまり上司の視界を想像して物事を考えられるかどうか」という。橋下氏が大阪府知事だったときのエピソードを紹介しよう――。

※本稿は、橋下徹『実行力 結果を出す「仕組み」の作り方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

2008年1月27日、大阪府知事選挙で当選を確実とし、中山太郎自民党衆院議員(右)らの待つ祝勝会場に到着した橋下徹氏(中央)。大阪市北区の選挙事務所にて(写真=時事通信フォト)

忖度には「悪い忖度」と「良い忖度」がある

仕事というのは、いかに想像力を膨らませられるかが、出来不出来を決めます。「上司はどう見ているだろう」「トップはどう見ているだろう」「お客さんはどう見ているだろう」という想像力のない人は、いい仕事ができるようにはなりません。

仕事の段取りも、先が読めるかどうかという想像力の問題です。先手・先手を打てる人は、つねに物事の進み方を想像して、あらかじめ段取りを組んで、対応していきます。想像力が働かない人は、後手・後手になってしまいます。

上司に提案をするときにも、上司の視界を想像して物事を考えられるかどうかは、提案が採用されるかどうかを左右します。

ある意味では上司に対する「忖度」です。

忖度には「悪い忖度」と「良い忖度」があります。

悪い忖度は、自分の出世や保身のために、上司に気に入られようとしてする忖度。あるいは組織を害するような忖度です。上司の意向を忖度して違法なことをするのは最悪です。

しかし自分の利益のためではなく、組織全体の利益を考えて、上司の思考を想像するのは、良い忖度です。組織全体の利益のために組織のトップの立場に立って考えられる人は、非常に良い忖度のできる人と言えるでしょう。

大阪府知事時代に遭遇した「良い忖度」

僕は、大阪府知事時代にこんな経験をしました。

インドネシアに出張したときのことです。立食形式のレセプション中に、トイレに行って、「大」の用を足したんです。それでトイレットペーパーを取ろうと思ったら、「……ない!」。バケツに入った水と柄杓が置いてありました。当時のインドネシアのトイレは、バケツの水でお尻を洗う方式でした。でも、どうやって使っていいのかわかりません。バケツの中の水がきれいな水なのか、使用後の水なのかもわかりません。

「困ったな」と思っていると、外から声が聞こえました。「知事、上からトイレットペーパーを入れますから」と。随行秘書の声でした。

府庁職員の随行秘書は、僕がトイレに行くのを見ていたのでしょう。僕がトイレからなかなか出てこないことで、トイレットペーパーに困っていることを察知し、投げ入れてくれたのです。