アイドル、芸人、ミスコンも「選んでいる人」たち

インフルエンサーやユーチューバーのような、「ひとりイノベーション」の実践者が人気である理由もそこにあります。彼らはなにかを決めて生きてはいません。「いまはこれに興味があるよ」「今日はこの商品を紹介するよ」と、いま自分が興味のあることを基準に生きているのです。

思えば、最近人気があるタレントやアイドルや芸人の多くもそんな人たちです。家電を語ったり、ビジネスを語ったり、専門的な勉強をはじめてみたり。「家電に詳しいから家電しかやりません」ではないのです。これもできる、あれもできると、いつもなにかにチャレンジしています。

ところで、いま大学のミスコンテストってどんな感じになっているか知っていますか? ミスコンといえば、ひとむかし前なら美人コンテストみたいなイメージでしたが、いまはまったく違います。審査員がいる場合もありますが、多くはAKB総選挙のような投票制。もちろん可愛いに越したことはないのですが、重要なのはみんなに投票してもらえること、友だちが多いことなのです。

そのために、候補者はなにをするか。まさに「自己投資」をするわけです。要は、お琴を習ってみたり、海外にボランティアに行ってみたりして、自分がいわば「選び直し」ができたことを、グランプリを決める決勝でスピーチします。自己啓発の実践についてプレゼンする場が、ミスコンになっているわけです。

彼女たちのメッセージの特徴は、だいたいこんな具合です。

ブランド志向から、自分の感性に合う選択へ

「わたしはこれまでふつうの学生でしたが、ノミネートされたことで精一杯努力して、人生を選び直せました。だからみなさんもきっと夢をつかめる。だって、このわたしができたのだから」

つまり、誰でも人生を選び直せるのだというメッセージを発して、みんなに「すごい、わたしもあんなふうになりたい」と思わせる人に票が集まるわけです。美人コンテストの面もありますが、それと同等に、いやそれ以上に「選び直せる美人」であることが求められているのです。なんらかの専門性やスキルにすべてを賭けることなく、つねに選び直しに向けてスタンバイ状態にあること。

これは、まさに自己啓発のモデルとなる生き方そのものです。

このような人が憧れを集めていることからも、いまの自己投資のイメージは、「選んでいる人」をロールモデルにした自己啓発的なイメージになっているのではないかと思います。

また、それが社会の趨勢でなく、個人の決断や直感から導かれていると主張されていることもポイントです。マーケティング・リサーチャーの三浦展氏は、近年の若者を調査するなかで、人びとに選ばれるブランド志向の強い人から、自分の感性に合う選択をする人たちへのシフトに注目し、「セレブリティからセレンディピティへ」という言い方をしています。

そんな人たちが人気なのも、彼らが「選べている」からなのです。

逆に見ると、いまは「これに決めた」と宣言してしまうのが怖い時代だということです。