「手のかからない良い子」が拒食症になりやすい

発症は遺伝因子と環境因子の相互作用だと考えられています。家系内にも拒食症患者がいたり、2卵性より1卵性双生児で発症の一致率が高かったりと、遺伝素因があることは推測されています。

発症しやすい性格傾向も指摘されています。「手のかからない良い子」と評されますが、良く思われたい気持ちが強く本音を出せなかっただけです。自己評価は低く、不安症で他者からの評価に過敏です。

また、「全」か「無」の発想、関係ない出来事と自分を関係付ける、自分を追い詰める「すべき」思考などの認識の偏りも強く、ストレスを作りやすく、ためやすく、発散するのが苦手です。家族が心配性で過保護で本人に失敗・挽回の経験が少ない場合、ますますコーピングスキル(問題対処能力)が未熟なままになります。

対応は、当面のストレスと思われる問題を軽減します。ただ、ストレス要因を容易に除けることは少ないので、コーピングスキルの向上を図ることが最終目標です。拒食症患者は誰にも本音を言えずに孤独を感じており、自己主張、感情を言葉にする、頼む、断る、相談することが苦手です。家族は思春期を経験してきた先輩としてモデルを示すことが重要です。

体重が増えても「太った」「前のように頑張れ」と言ってはいけない

低体重や飢餓による精神症状は知的作業である精神療法の障害になるので、ある程度の体重増加は急ぎます。加えて、日常生活の出来事をテーマにして適切な対処法を学び、実際に試していくという援助をします。「生きやすさ」の獲得ですから、医療機関だけでは達成できず、ご家族、学校、周囲の方々の協力のもと本人が体験しながら力をつけていくしかありません。

コーピングスキルが向上し、思春期にありがちな問題にどうにか対処できるようになりながら、体重と食行動も改善していくという地道な作業です。特効薬も、保険に適用された薬剤もありません。

薬剤は胃腸症状や抑うつ気分などに補助的に使用します。周囲の人には、体重増加で現実に近づくつらい気持ちを理解して、「太った」「元のようにまた頑張って」「体は治ったのになぜ登校できないの」などの声かけは慎んでほしいと思います。

新体操や体操、陸上競技など低体重が記録や成績に影響する競技では、指導者が無理な減量や、月経が止まるほどの練習を強いている場合があります。日本陸上競技連盟から指導者向けに「ヘルシーアスリートをめざして2014」が出され、女子アスリートの健康問題の3主徴、Low energy availability(摂取カロリーより運動カロリーが大きい)、無月経、骨粗鬆症に注意するように警告がされていますが、現場での教育は不十分です。