英語と中国語を含む4カ国語が堪能なエリートの悩み
韓国でも指折りの食品系大企業に勤めるウォン・ソンジェさん(仮名・38歳)は、英語と中国語を含む4カ国語が堪能で、日本語も中級程度。韓国で上位3校に入る一流大学を2度留年したが、語学力や保有資格の多様さ、課外活動が評価され入社に至った。エントリーシートを50枚出し、そのうち採用に至ったのは大企業を含め5社とかなりの打率だ。高スペック人材の偏りを示す事例ともいえる。しかし、業務内容が思っていたより地味だったことにウォンさんは不満を漏らす。
「食品業界は保守的で、他業種との接点もなく、1度売れた商品がずっと売れ続けるだけにイノベーションがあまりないんです。現在勤続8年目で、抜け出せなくなる前に転職したいのですが、僕の年齢では厳しい。半ば諦めています」
受験戦争で燃え尽きるケースもある。パク・チャンホさん(仮名・25歳)は卒業生に国際機関のトップも輩出する名門校を卒業。一時期ほどではないが、就職しやすさは国内でも指折りで、船舶関連企業で一定年数働けば兵役も免除されるという破格の扱いだ。
だが、パクさんはそのすべてを捨て、若くして一日6万~8万ウォン(約5900~7900円)の日雇い労働者となった。いずれ日本でも働きたいという。
「父は僕が名門大学に通っていることが自慢だったので、すっかり呆れています。実家暮らしですが、もちろん親にお金を渡していますし、僕が母や姉から小遣いをもらうこともあります」
それでも高校時代の成績はつねにトップだった。
「狂ったように勉強しました。志望校への合格しか眼中になかった」
「肩身は狭いけど、奴隷のように生きるよりマシ」
地方の全寮制進学校で、毎朝6時に登校し、授業が始まるまで自習。放課後も深夜まで居残り勉強をする日々。休み時間は眠気覚ましのため鉄棒にぶら下がり、授業中は2冊のノートを開き「右手で授業の内容を、左手では英単語を書き取っていた」と言う。努力が実りめでたく合格するも、同時に学業への意欲は消えてしまったという。
「吹っ切れたのは、最終学年での船舶実習で暗く狭い部屋で数カ月も過ごしたときです。もう、抑圧にもほどがあるんじゃないかって」
すでに就職していたり、就業準備に追われる同級生からは、当然ながら異端児として扱われているパクさん。だが、彼は微笑みながらこのように話す。
「確かに肩身は狭いけど、奴隷のように生きるよりマシ。いざとなったら、同級生が職を斡旋してくれると思うしね。僕の座右の銘は『人事を尽くして天命を待つ』。自分に正しく生きていれば、明日はきっと良くなります」
強烈な同調圧力をすり抜けるパクさんのようなしたたかさが、韓国社会に風穴を開ける日が来るだろうか。