ミクロの給付水準を確保するためには、マクロ経済スライド調整期間を短くすることが必要です。調整期間の長さは基本的に2つの要素で決まります。ひとつは将来の労働力人口(=被保険者数)、つまり支え手の数。出生率の回復・労働力人口の増大がまず一番の処方箋です。
もうひとつは現役世代の賃金=保険料の伸び、つまりは経済成長です。成長して給与や保険料収入が増えればそれだけ年金財政は安定し、将来の給付も確保できます。経済成長率と年金財政との関係は運用利回り、賃金上昇率、賃金と物価の関係など複雑な要素があるので話はそんなに簡単ではありませんが、基本的には経済成長は年金財政の安定にプラスに働きます。
制度が格差を拡大化させている?
そのうえで、公的年金制度の側でできることは何か。実は前回14年改正の議論の中ですでに「処方箋」が示されています。「支え手の拡大-非正規労働者への厚生年金適用拡大」「寿命の伸長に合わせた就労期間(=加入期間)の延長」そして「年金受給開始時期の弾力化-自由選択制」です。
前回の財政検証では、それぞれを実施した場合にマクロ経済スライド調整期間と最終の年金給付水準(所得代替率)がどうなるか、という試算を行いました。いわゆる「オプション試算」です。
非正規労働者への厚生年金適用拡大は「支え手を増やす」ということです。支え手が増えれば保険料収入も増えます。もちろん将来それに見合う給付も増えますが、当面の財政収支は改善し、言ってみれば「拡大均衡」が実現できるのでマクロ経済スライド調整期間が短くなります。基礎年金についても、非正規労働者が第1号被保険者から第2号被保険者に移ることで国民年金の財政状況が改善。マクロ経済スライド調整期間が短縮されて基礎年金の給付水準が改善されます。
オプション試算の結果によれば、250万人の適用拡大で所得代替率はおおむね0.5%ポイントの改善。さらに一定以上の所得のある非正規労働者をすべて適用する(約1200万人の適用拡大)ところまでやれば所得代替率は5~7%ポイントの改善、マクロ経済スライド調整期間は10年以上も短縮。非常に大きな効果があることがわかります。非正規労働者の老後所得保障が充実し、受給者全体の給付水準が改善される改革です。
「働き方の多様化」が進む中で、雇用形態の違いや就労時間の違いで被用者を区分して医療や年金の適用を違えるのは社会保障制度が格差を固定化・拡大しているようなものです。保険料負担増に反対する経済界の意見などもありますが、「格差是正」という意味でも被用者には被用者にふさわしい社会保障制度を等しく適用するのが、あるべき姿だと私は思います。