いつまで生きるかわからないから公的年金があります。だから終身給付なのです。早く死んでしまって年金が「もらい損」になっても、生きている間の生活が年金で守られたのなら本人は困りません。それよりも、できるだけ長く働く、あるいはまず貯蓄を先に使って生活費に充てる、そして年金受給は繰り下げる、としたほうが、長生きしたときに確実に豊かな老後を送ることができます。

所得代替率は約15~17%ポイントも上昇

オプション試算によれば、働いている期間は年金に加入し続けることができるようにして、受給開始時期を自らの選択で後ろ倒しにすると、現行制度の年金額計算式でも、所得代替率は大幅に引き上がります。例えば、基礎年金を47年拠出とし、67歳まで働く。そして、厚生年金制度に加入し続けて67歳から年金を受給する(受給開始時期を2年間後ろ倒しにする)ことにすると、加入期間(拠出期間)の伸長と受給開始繰り下げの相乗効果で、所得代替率は約15~17%ポイントも上昇します。年金受給開始時期の繰り下げは、マクロの年金財政に影響を与えることなく、個人の判断で年金をより有効に活用できる方策の1つだということも知っていただければと思います。

いかがでしょうか。マクロの公的年金制度はマクロ経済スライドの導入で持続可能になりました。そのうえで、ミクロの年金保障、一人一人の年金額をいかに確保していくか。基本は「出生率の回復と支え手を増やす」ことと「できるだけ長く働ける社会をつくって現役期間を長くしていく」こと。それを踏まえて、公的年金制度の側でできることを確実に実行する。なるべく多くの被用者を被用者年金に適用し、本人の老後保障と年金給付水準全体の確保を図る。年金受給開始を自ら選択できるようにする。そして、現役時代の貯蓄や私的年金・企業年金など一人一人の自助努力を支援する仕組みを組み合わせる。2040年に向けての課題は、そういう制度設計を考えることだと思います。

※本稿は個人的見解を示したものであり、外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係ありません

香取照幸
駐アゼルバイジャン共和国大使
1956年、東京都生まれ。東京大学卒。厚生労働省で政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。
(撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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