2022年には「団塊の世代」が後期高齢者に仲間入り
2022年には「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者に仲間入りし始める。この世代が本格的に医療費を使うようになれば、日本の医療費はさらに大きく膨らむことになる。そのツケを、今の仕組みのまま、健保組合の現役世代に「支援金」として負担させれば、さらに大幅な保険料引き上げをしない限り、健保組合の財政は間違いなく悪化する。値上げが難しい健保組合は、2022年を前に解散する道を選ぶに違いない。
今後、高齢化だけでなく、ひとり当たりの医療費の高額化も止まらない。中でも「高額薬剤」問題は深刻だ。
2015年度に調剤費が前年度比9.4%増の7兆9000億円と一気に7000億円も増えたことがあった。2015年に肺がんへ保険適用が拡大された「オプジーボ」という薬が保険で使われたことが原因だった。1回約130万円、1年間の投与で3500万円かかるという「高額薬剤」だったのである。
健康保険の財政負担が急増したこともあって、厚労省は薬価改定の時期を待たずに特例でオプジーボの価格を引き下げるなど、急きょ対応した。だが、こうした高額薬剤は今後、増えていく傾向がはっきりしている。
高額化する医療費を誰が負担するのか
3月26日、スイス製薬大手ノバルティの日本法人は、新型がん免疫薬「キムリア」について、国内での製造承認を得たと発表した。5月にも薬価が決まるが、米国では1回5200万円という値段が付いた薬剤だ。
これが保険適用されると、保険財政が圧迫されると懸念する報道が出ている。薬価が5000万円の場合、年収370万円以上770万円未満の人の自己負担は月に約60万円が上限で、残りの約4940万円は保険が負担することになるとする試算が報じられている。
医療の高度化で難病が完治する時代になることは喜ばしい。だが、それは医療費の高額化と裏腹である。
誰でも低い負担で質の高い医療が受けられるという日本の国民皆保険制度が素晴らしいことは間違いないが、その保険の仕組みがもたなくなれば、どんどん公費負担が増え、国の社会保障関連費はうなぎのぼりになる。高額化する医療費を誰が負担するのか。何が何でも国で支えるべきなのか。抜本的な改革が待ったなしであることだけは間違いない。
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。