通常の社債は、満期が到来したら額面金額を社債保有者に返済しなければならない純然たる負債である一方で、転換社債は純資産の要素も持ち合わせる。つまり、社債保有者が権利行使すれば、社債が株式に転換されるのだ。もし、社債が株式に変われば、サイバーの調達した400億円は返済不要な純資産となる。
では、いつ権利行使されるかというと、「サイバーの株価が上がって社債で持つより株式で持っておいた方が儲かる」と社債保有者が判断した時だ。その権利行使期間は200億円ずつ、それぞれ2023年と2025年に設定されている(図表10参照)。
「転換価格」とは社債を株価に転換した際の1株の発行価額をいう。4年後ないしは6年後までにアベマの黒字化のめどがつき、株価がこの転換価格以上に上昇するかどうかが焦点となる。短期的な株価の変動で一喜一憂するのは気が早い。
飛躍への序章にすぎない
現在、サイバーが取り組んでいる様はアメブロ立ち上げ時期(2004~2009年)と構図が似ている。
当時は大手プロバイダー系や大手ポータルサイト系など多数のブログサービスが乱立したこともあり、アメブロは立ち上げから5年間ずっと赤字続きだった。
その間、多くの投資家に「広告屋にメディア運営なんか務まるわけない」「いつまで赤字を垂れ流すつもりか」「いい加減、本業の広告に専念すれば?」などと揶揄されてきた。
しかし、そのような外野の声に屈することなく、地道にブログ事業を育ててきた結果、今やアメブロは国内最大手に成長した。ブログ事業単体でも利益を出し、さらにはインターネット広告事業の収益力アップというシナジー効果をもたらす。かつてお荷物だった事業がグループ全体の業績に多大な貢献をしているのだ。
アベマもいまだに赤字つづきだが、開局したのは2016年4月だから、わずか3年弱しかたってない。まだまだ先行投資のステージにある。もちろんアメブロのようにうまくいくとは限らない。だがアベマが単体で黒字化を果たす頃には、グループ全体の収益力は今とは比べものにならないくらいに、強靱なものになっているだろう。
公認会計士
早稲田大学会計大学院非常勤講師。監査法人での会計監査、ベンチャー企業での取締役兼CFOなどを歴任。現在、多数の上場企業の社員研修や各種団体主催の公開セミナーなどで、「会計」をわかりやすく伝える人気講師として活躍中。著書に『決算書を読む技術』『決算書を使う技術』(共にかんき出版)、『いちばんやさしい会計の教本』(インプレス)がある。公式サイト