「焼け太り」論理に振り回されてはいけない

障害者雇用率で言えば、自分の役所だけが達成しなければ大問題になる。その数値管理を担当する官僚からすれば、何とか数字はクリアしたい。やや脱線して辻褄合わせを行っても咎め立てされないとなれば、不正に手を染めてしまう。「鉛筆を舐めておけばいいんだ」といったムードが現場には間違いなく存在する。

統計不正問題が国会で追及されるようになって、霞が関からは、「人が足らないのが原因だ」といった声が漏れてくるようになった。統計を担当する部署は軽視されて、人数も減らされているから、間違いが起きる、というのである。

だが、これは霞が関お得意の「焼け太り」論理だ。前述のような「カルチャー」を変えない限り、いくら人を増やしても不正は無くならない。自分たちの政策立案にとって統計こそが重要だとなれば、誰もデータやその収集方法を軽視しなくなるだろう。

真面目に障害者雇用をしてきた企業が困惑している

障害者雇用の水増し問題では、民間企業にとんだとばっちりが及んでいる。法定雇用率を達成させるために、2019年末までに約4000人を採用する計画を政府が立てたのである。2月には障害者だけを対象にした初の国家公務員試験が行われ、6997人が受験した。そのうち2302人が2次選考に進み、全省庁で676人が採用される見込み。

こうした受験者の多くは、すでに民間企業で働いている障害者が多い。民間よりも待遇が良く、将来性に不安がないことから、公務員を希望するわけだ。その結果、企業での障害者雇用が減少し、下手をすると法定雇用率を割り込むことになりかねない。

長期にわたって真面目に障害者雇用に取り組んできた企業ほど、この公務員大量採用に困惑している。さすがに政府も1年で4000人の採用は不可能だとわかったのだろう。達成期限を2020年以降に先延ばしする検討を始めている。

今後、数字の「辻褄合わせ」や「忖度」を防ぐにはどうすれば良いのか。1つは罰則を強化することだろう。障害者雇用の促進では官房長の責任が明記されたが、実際にどんな人事評価を受けるかまだわからない。公務員には身分保障があり、原則として降格処分はできない仕組みだ。そんな中で、不正に改ざんした場合の罰則をどれだけ厳しくできるかが、再発防止には重要だろう。自らの処遇に直結するということがはっきりした途端、本気で仕事をするというのも霞が関官僚のカルチャーである。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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