「バカッター発生の理由」を語る識者への違和感
ここまで9つの「バカッター、バイトテロが発生してしまう理由」を述べてきたわけだが、今年の一連の騒動に関連して、かなり違和感を抱いた事柄がある点も付け加えておこう。
それは「バカッター発生の背景に『ブラック企業への反乱』とか『非正規雇用の待遇の悪さへの怒り』といった思いがあり、その発露がSNSでの悪ふざけ投稿なのである」といった論考に持ち込もうとする識者が登場した件である。結局、おのれの主義主張に基づいて政府批判、大企業批判をしたいがために、ゴージャスバカの面々がやらかした愚行を体よく利用しているだけなのではないか。
そうした論を唱える彼らには、以下のような質問をぶつけてみたい。大多数の人が「なるほど」と納得できるような回答があるなら、ぜひご教示いただけないだろうか。
「バカッターの背景には、報われない労働者の怒りがある」などと説く方々に質問
【Q2】99%を超えると思われる「バカッターをしない非正規雇用労働者」はなぜ、こうした動画や写真を投稿しないのか? いろいろと抑圧されながらも、自身の生活や仕事を守るため、本当はバカッター画像・動画の投稿をしたいのに、我慢しているだけなのか?
【Q3】そもそも非正規労働を選ぶ人は皆、一様に不幸なのか? なお、総務省が先ごろ発表した「労働力調査」(2018年平均〔速報〕)によれば、「非正規の職員・従業員についた主な理由」として最も多く挙げられているのが「自分の都合のよい時間に働きたいから」で29.9%だった。次いで「家計の補助・学費等を得たいから」が19.7%、「その他」が13.2%と並び、「正規の職員・従業員の仕事がないから」は12.8%だった。
【Q4】不満を持った労働者は世の中に数多く存在しているだろうが、なぜバカッターは若者により投稿されるケースばかりなのか? 「待遇の悪さ」が理由なのであれば、中小企業でパート事務員をしているような中高年や、介護職のアルバイトに従事しているような中高年からバカッターが次々と投じられても不思議ではない。結局のところ、若者には常識や分別が足りず、未熟なために起きたということであって、待遇は関係ないのではないか?
【Q5】バカッター騒動は「従業員が悪ふざけをして」発生したケースもあるが、回転ずしの客が鼻の穴に醤油さしを突っ込んだり、レーンを流れるすしに大量のワサビを塗ったりなど、従業員以外の人間が起こしたケースも多い。その他、焼き肉店の客が店のジョッキを割ったり、焼き肉のタレを飲んでグリルの中に吐き出したりするなど、「客が飲食店で愚行に興じ、その模様をネットに投稿した結果、炎上」という例はいくつも挙げられる。これらにも「非正規雇用問題」「貧困問題」が関わっているのか? 「ブラック企業では人員が足りず、監視の目が届かない。しかも正規社員がその場にはいないことが多い」といった論点のすり替えはやめていただきたい。あくまでも「バカッターを投稿する客の問題」として論じてほしい。
以上、バカッター問題、バイトテロ問題について、私が考えるところはほぼすべてここに著したと思う。「もうバカッター絡みの話題には関わりたくない」という個人的な思いに加えて、「この話題について、メディアはもはや取り上げる必要などないのでは」という問題意識もあり、少々話が長くなってしまった。
私がバカッターについて語るのは、本稿が最後になることを願っている。
・バカッターもバイトテロも、発生する理由は結局のところ「バカだから」に尽きる。
・バカッター、バイトテロについて、そろそろ過剰に注目するのはやめたらどうか。だって「バカ」が「バカなこと」をしているだけなのだから。
・テレビ局は番組尺を埋めるのに困ると、すぐにネットから話題をパクってくる。ネットのバカネタになんて頼るな。自分たちの足でもっとマシなネタをとってこい。
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。