介護の小さな悩みを打ち明ける相手がいない
また、男性は精神的にも追い詰められがちだといいます。Mさんは「女性なら日常の些細なことを話せる人が身近にいるもの」と話します。
「女性の場合、周囲には介護経験を持つ人がいることも多く、アドバイスや悩みを聞いてもらえる。でも、多くの介護初心者の男性にそういう話し相手はいませんし、プライドがあるのか助言を求めることもできない。困りごとがあっても自分で解決しようとするんです。でも、介護の問題は自分ひとりでは解決できないことが多い。結局、解決策が見つからず追い詰められていくわけです」
「また、誰かに悩みを聞いてもらえば、たとえ抱えている問題が解決できないにしろ、ガス抜きというか、すっきりできるものですが、それができずストレスをため込んでしまう。それでイライラが高じ、虐待といった問題に発展しがちなのだと思います」
妻が要介護に、親と同居の独身男性、きょうだいに女性ゼロ……
こうした指摘を聞くと、男性には介護は向いていないというか、到底務まらないような気がしてきます。実際のところ、実親が要介護になった際、妻やきょうだいの中の女性に任せる人も少なくありません。
厚生労働省の調査「在宅介護における主な介護者の状況」(2001年)によれば、介護の当事者は女性が76.4%、男性が23.6%で、女性が大きく上まわっています。実はこの調査は2001年の1回しか行われておらず最新のデータがないため、介護業界では「介護者の3人に1人が男性」というのが通説です。男性が介護の担い手になるのは、夫婦2人でいて住んでいて妻が要介護になった、老親と同居する独り身の男性、きょうだいに女性がいない、といったやむを得ないケースに限られます。
「本来なら仕事に集中していればいい日常に、いきなり介護ケアと家事が加わるのです。小さなことですが他にも気を遣わなければならないこともあります。紙オムツなどの介護用品を定期的に買いにいかなければならないとか。介護の対象が女性の場合は下着を買うのも大変です。男性は女性の下着売り場には行きづらいですから。さらに認知症の症状がある場合は意思の疎通ができずイライラすることも多いですし、そんなこんなで疲れ切ってしまうのです」(Mさん)