日本は「長寿大国」といわれる。だがそれは誇らしいことなのか。医師で医療ジャーナリストの富家孝氏は「内実は『寝たきり老人大国』。無意味な延命策より、現役世代の医療費軽減に取り組むべきだ。75歳になったら国が健康保険証の返納を求めてもいい」と主張する――。
平均寿命と健康寿命の差を考えると、日本人男性は最晩年の約9年、女性は約12年を、「健康ではない」状態で人工的に生かされて過ごすことになる――。※写真はイメージです(写真=iStock.com/06photo)

「長寿大国」日本の悲惨な現実

2018年7月、厚生労働省が発表した「平成29年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は、女性は87.26歳、男性は81.09歳。男性の平均寿命が80歳を超えたのは2013年のことで、これで連続4年目ということで、新聞からテレビまで大きく報道されました。かつて日本は平均寿命世界一でしたが、現在は香港に抜かれて2位。それでも、世界に冠たる「長寿大国」なので、メディアはこれを誇らしく報道するのです。

しかし、この「長寿大国」の現実は、実は悲惨を極めているのです。なぜなら、日本は世界一の「寝たきり老人大国」だからです。正確な統計はありませんが、介護者数などの統計から推測すると、約200万人の高齢者がいま「寝たきり」で暮らしています。

これほどまでに多くの高齢者が、寝たきりで漫然と生かされている国はありません。欧米はもとよりアジア各国でも、高齢者が病院や施設、あるいは自宅で寝たきりなどということはありえないのです。特に欧米の場合、人が自力で生活できなくなった時点で、どうやったら自然に死なせていくことができるかを周囲が考えます。しかし日本は、できる限り生かそうとするのです。そのため、栄養剤を補給するための点滴を行い、さらに胃ろうを取り付け、最期は人工呼吸器まで取り付けて生かし続けるのです。

胃ろうというのは、口から物を食べられなくなった患者さんに、チューブを通して胃に直接、栄養物を送り込むものですが、これを付けたらほぼ2度と口から物を食べられなくなります。したがって、欧米では胃ろうを付けません。口から物を食べられなくなった時点で、もはや人間ではないと考えるからです。欧米では、人間を人工的に生かすことを生命への冒とくと捉え、胃ろうは「老人虐待」というわけです。

ところが、日本はまったく逆で、どんな状態であろうと生かせればいいのです。ですから、一部の国で認められている「安楽死」も、認められていません。2012年の日本老年医学会による「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」や2014年の診療報酬改定で、「漫然と胃ろうをつくる風潮」には歯止めがかかりましたが、胃ろうが減少した代わりに経鼻胃管や中心静脈栄養などの別の延命手段をとるケースも増えており、結局「人工的に生かしている」状況に大きな変化は見られません。