「健康寿命」の後に待つもの
現在、私は医師の紹介業もしているので、老人医療の現場を数多く見ていますが、寝たきりになった多くの高齢者が、実は長生きを望んでいません。「先生、もう回復の見込みはないのなら、こんなかたちで生きていたくありません」と、率直に言う方が多いのに驚かされます。また、ご家族も、意識もなく寝たきりになった親を抱えて、途方に暮れているのです。しかし、医者は“救命装置”を下手に外すと殺人罪に問われかねないので、これができません。
65歳で高齢者の仲間入りした人に、「何歳まで生きたいですか?」と聞くと、たいていの人は「やはり平均寿命までは生きたいですね」と答えます。しかし、平均寿命の前に健康寿命というのがあることを多くの方は知りません。メディアもほとんど伝えません。
健康寿命というのは、簡単に言うと、どれくらいまで元気で健康に暮らせるか? という寿命です。人の助けにならず、自分で日常生活を送れる限界の年齢と言い換えてもいいでしょう。厚労省では、3年ごとの調査に基づいて、健康寿命を発表しています。その年齢は、男性は72.14歳、女性は74.79歳(2016年)です。
とすると、平均寿命で死ぬと仮定すると、男性で約9年、女性で約12年もの期間が「健康ではない期間」になります。次の[図表1]を見ていただければ、そのことが厳然とわかると思います。
つまり、なぜ日本が「寝たきり老人大国」になってしまったかが、この図でわかるのです。メデイアがいくら「長寿大国」と言っても、この現実がある限り、日本は決して誇れません。
男女ともに70歳を超えると、老化が一気に進みます。健康でいられる期間はそう長くはないのです。これは、いくら平均寿命が延びても、幸せに生きられないということを表しています。不健康な期間が延びるだけだからです。
この不健康期間は、本人はもとより世話をする家族に心身両面の負担を強いることになります。現在、問題になっている「老老介護」が、高齢者家庭を直撃するのです。それに加えて、急速な高齢化が進むいま、このまま不健康期間が延び続けると、介護費用、医療費用が膨大なものになっていきます。
メディアの無責任な『長生き礼賛』
このような状況になっているのに、メディアは長生きを礼賛し続けています。最近では、この7月に日野原重明・聖路加名誉院長が105歳で大往生したことをメディアは称賛しました。日野原氏の「朝昼晩しっかり食べろ」という健康法は、これまでに何度も取り上げられ、「こうすれば長生きできる」と、メディアは長生きをもてはやしてきました。また、古くは「金さん銀さん」が長寿のアイコンとして、メディアにもてはやされました。