ホワイトカラーの存在意義は「考えること」
日本独特の仕組みは、いかに優秀であっても、数年で日本を去ってしまう外国人のトップには理解することができないでしょう。だとすれば、日本人が彼らに提言しなくてはならないはずですが、多くの日本人は「日本だから」という答えになっていない論理でお茶を濁そうとしがちです。これでは本質を考える力は育ちません。
以前、ネスレ日本の社員を対象に、勤務時間の使い方を調査したことがあるのですが、「考える」ことに使っている時間は7%程度でした。この結果にはショックを受けたのですが、他の社長に話したところ、「多いほうではないか」と言われてさらにびっくりしました。
私は、考えることこそが、ホワイトカラーの本来的役割であると考えています。ビジネスパーソン向けに問題解決力を高める研修やセミナーがたくさんありますが、むしろ問題そのものを見つける力を高めるべきではないでしょうか。
最近は、本当に重要なものを見極める力として、「センスメイキング」に注目が集まっており、リベラルアーツ教育も見直されているようですが、センスメイキングを身につけるにはおそらく勉強だけでは足りないでしょう。まずは目の前に起きている現実をしっかり見て自分の頭で考えることが大切です。
「ジェンダーバランス」を例に考えてみる
考える題材はいくらでもあります。たとえば、「日本企業はジェンダーバランスが悪い」という話を聞いたとしましょう。たしかに、日本では欧米と比較して役員に占める女性は低い割合にとどまっています。このとき、理由として一般的に挙げられるのは、「日本は伝統的に男社会だったから、欧米のようにはいかない」というものですが、これを鵜呑みにせず、より本質的な理由を考えてみるのです。
遡ってみると、欧米でも女性の参政権がない時代はあり、日本と同じく男社会でした。ところが近年はジェンダーバランスの改善は日本よりもはるかに進んでいる。そう考えると、問題の根本原因が「伝統的な男社会」ではないという仮説が立ちます。
欧米になく、日本特有の事情とは何か――。そう考えると、「終身雇用制度」に行き着きます。労働市場の流動性の高い欧米とは異なり、日本では終身雇用制度がルール化されており、就職すると一生涯その会社に勤めることが普通です。そうすると転勤が不可欠になりますから、子育てをする女性にとっては大きな障害となってしまう。ここにジェンダーバランスを偏らせる原因があります。