中国との「ガチンコのケンカ」で学んだこと
僕は大阪府知事という立場で、大阪府民の生活に実際の責任を負いながら、中国政府ともガチンコのケンカをやってきた。そしてその経験の中で、ガチンコのケンカにおける直接証拠の大事さと、それに加え中国政府のある種の合理性というものを実体験したんだ。
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2010年9月、尖閣諸島沖で、中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突した。当時の民主党政権はその対応について迷走した。当初は強気で漁民を逮捕、身柄を拘束。そして中国側は猛抗議。最終的に民主党政権は、那覇地検の判断としてこの漁民を処分保留で釈放した。中国からの猛抗議に腰砕けになってしまった。
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そのとき丁度、中国の上海では、中国の高度経済成長の象徴として上海万博が開催されていた。僕は、その閉幕記念行事の一環として、基調講演をして欲しいと上海側から招待を受けたんだ。この上海万博は中国の勢いを表している大イベントで、日本の国会議員はもちろん、全国の知事や市長、地方議員たちもこぞって出向いていた。
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僕は府庁の担当幹部を呼んで、「このままいけば、必ず中国側は上海万博に日本の政治家が来ることをキャンセルする。一方的にキャンセルされることは避けなければならない」と伝えたんだ。
中国は非民主国家。中国共産党が民間活動も全て牛耳っている。中国共産党、中国政府の掛け声一つで民間がそのとおりに動くんだよね。
だからある外国との間で中国共産党、中国政府の気に食わない事態が生じれば、中国共産党、中国政府はその国に関連する政治的なイベントを中止するだけでなく、民間活動も中止してくる。民間のイベントを止めたり、観光客の往来を止めたり、商取引を止めたり、ね。
日本の経済はある意味「中国頼り」になっている。日本全国の地方自治体は、中国からの観光客をあてにし、中国企業との取引をあてにしている。だからそれらを止められると非常につらいので、中国の機嫌を損ねないようにしているという実情がある。
このようなことを批判することはたやすい。特に政治行政に責任を持たない、一国会議員や学者やインテリの類は、カネよりもプライドを重視しろ! と平気でいう。でも政治で最も重要なことは国民がきちんと飯を食っていけるようにすること。そこをしっかりと築いた上で、さらに日本のプライドを守るというのが現実的な政治だ。
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上海から招待を受けたのに、一方的にキャンセルされるというのは大阪のプライドが許さない。そこは絶対に避けなければならない。他方、一方的にキャンセルされたとして、中国とケンカするにしても、観光客を止めるぞ! 商取引を止めるぞ! と脅されて、そのまま腰砕けになることも絶対に避けなければならなかった。
この尖閣諸島をめぐる漁船・海上保安庁巡視船衝突事件によって、必ず中国側は招待をキャンセルしてくる。キャンセルされた場合には、僕は大阪のプライドを守るために中国とガチンコでケンカをする。そのケンカで絶対に負けないように完璧な準備をすべきというのが、僕の府庁担当幹部への指示だった。