50代の“若若介護”のキーワードは、「先が見えない絶望」

少数派ではありますが、今回のインタビューの中で、被介護者が60歳以下という例も報告されました。この場合、看る介護者は、配偶者であったり、20代の子供であったりします。

以下は、現在70歳の夫をこの15年間、ひとりで配偶者介護をしてきたHさん(現在64歳)の事例です。

35歳の息子と3人暮らし。週2回ほど、事務系の仕事をこなしながら介護を継続しています。ここ1、2年はデイサービスに行ってくれるようになって、自分にも余裕が出て楽になりましたが、「最初はつらかった」と言います。それまでは誰の手助けもなしで介護。本人にデイサービスやショートステイが嫌だと言われると、最初は「なんで行ってくれないの?」と、怒りがこみ上げておさえられなかったそうです。

夫は、徐々に四肢が動かなくなる難病で、55歳の時に介護認定を受けました。病気発覚後、退職せざるを得ませんでした。その現実を受け入れられなかったのか、夫は少しでも目を離すと勝手に外に出て行ってしまう。時折、認知症のような症状も見せ、出先で迷子になることもあり、衣服に血液型から名前まで全部くっつけておいたこともありました。

夫が歩けなくなって「正直すごく楽になった」と安堵

最も介護が大変だったのは、夫が50代後半~63歳の頃。薬によってオン(病状が落ち着いている時)とオフ(病状が悪化する時)があり、オフになると震えたり、気分が悪くなったりしたそうです。徘徊したときも近所の人には助けを求めず、自分ひとりで自転車に乗って探したと振り返ります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sprng23)

以前、夫は歩くことができましたが、最近は足の筋力が弱り車いす生活とのこと。病状が悪くなることは悲しむべきことでしたが、夫が自力で歩けなくなってから「正直、すごく楽になった」と安堵していました。

とはいえ、夫の飲み薬(1日10錠以上)の管理や、オムツの付け外しを含め自宅での介護のほとんどはHさんが担っています。「同居の息子は仕事があるし、できるだけ子供たちに迷惑をかけたくありません。若いうちから親を看るなんてかわいそうなので、やれることは全部私がやります。全部一人でやっちゃったほうが早いし」と介護をひとりで抱えようとします。

今後は、平日はデイサービス、土日はショートステイを徐々に増やしたいといいます。「介護にかかる費用は安くはないけれど、自分が疲れないことが夫への思いやりにもつながる」と考えていますが、「夫より先に倒れられないし、死ねない」というのが本音。先が見えない状況にいることに変わりはありません。