60・70代までの「若さ」の価値観が変化

60代くらいまでは、年齢にサバを読むどころか、年齢を隠し、実年齢より若く見せたい、見られたい人の方が多い。テレビの美容関連のコマーシャルを見ても、40代、50代に見せるための高齢者向け若作りの美容法が溢れている。そう考えると、こうした「サバ読み現象」が生じる年齢分岐点は、虚弱化し心身の不調を抱える高齢者というイメージが社会通念化している年齢、せいぜい80歳間近ぐらいと考えていいのではないだろうか。

春日キスヨ『百まで生きる覚悟』(光文社新書)

この年齢ぐらいになると、女性は「若くて美しい方がいい」という「若さ」と「美」を重視する評価基準が、「若くて元気な方がいい」と「若さ」と「元気」とが結びつく方向に移行する。「若さ」はそのまま大事だが、加齢とともに、「元気であること」が「美しさ」に取って代わるのだ。そんな中で、人から「元気」と言われることが「自分は若い」という自己評価につながり、サバを読みたい心理が働くようになる。

だから、高齢になるほど、実年齢にサバを読む人が増えてくる。そして、そうした傾向があるのだとしたら、自分の年齢にサバを読み始める年齢が何歳ぐらいかを知ることで、自他ともに高齢者であると認める年齢が何歳ぐらいからかを知る目安にすることが可能かもしれない。そう考えたのである。

他人の目からでないと自分の歳を自覚しない

自分の「歳」について、78歳(記事中)の落語家の柳家小三治さん(1939年生まれ)が語る新聞記事を読んだ直後に、聞き取りをしていた91歳の男性Lさんが、小三治さんとほぼ同じことを語ったのだ。

記事中、小三治さんはこう語っていた。

 「年をとるっていうのは、突然来るんですかねえ。だんだんなんですかねえ。(中略)年をとってるなんて、ちっとも思わなかったんだけどねえ。
 クラス会に出かけて同級生たちを見ると、やっぱり年寄りだな、自分もこんな年なのかなって思ったりしますね。だけど私は、少年のまま、噺家になったときのまんまで、ずーっと来てるとしか思えないんですね」
(「語る──人生の贈りもの── 噺家 柳家小三治(1)」『朝日新聞』2017年10月30日付朝刊)

そして、Lさんもまた、次のように言ったのである。Lさんはみかん農家。軽トラックを運転し、みかん山と作業場を往復する暮らしをしている人である。

Lさん「自分は歳とったなんて思ってなかったんだが、この間、街を歩いてたら、3歳下の子ども時代の知り合いと出会って、『歳とったなあ、この男!』と思うて。でも、よく考えてみれば、わしの方が3つも歳上で、『わしも歳をとったんかいなあ』と思いましたよ」