日産の日本人幹部による追い落とし計画だったのか
認めなければ特別背任や脱税といった「本丸」に突き進み、有罪になれば実刑判決もあり得る。世界を代表する経営者が一転して日本の刑務所に収監されるというのはゴーン容疑者本人にとっても耐えられない屈辱に違いない。
だが、かつて何度か取材した経験から言えば、「強気」のゴーン容疑者がすんなり有罪を認めるとは考えにくい。あくまで無罪を主張すれば、検察は「本丸」の疑惑追及に突き進むのだろう。
今回の逮捕を巡っては別の要因がある、との見方もある。ゴーン容疑者に対する社内調査と同時期に、ルノーによる日産統合の話が急浮上していた。大株主であるフランス政府がゴーン容疑者に圧力をかけ、日産を完全に統合する方向にもっていくよう求めていたという。
これまでは日産の独立性を守ることを掲げていたゴーン容疑者が、その圧力に屈し、日産と合併する方向に動き出したのが、日産の幹部を慌てさせたのではないか、というのだ。つまり、今回のゴーン容疑者の不正追及は、日産の日本人幹部による追い落とし計画だったのではないか、というわけだ。
日産がここ半年、経産省に急接近していたのは間違いない
NHKの番組では、社内の不正追及をした監査役らのグループは、取締役会で不正と疑われる「重大な私的流用」疑惑について、取締役会での指摘は避け、いきなり特捜部に持ち込んだとしている。「取締役会で疑問をぶつければ、握りつぶされてしまう」としていたが、本来ならば、まずは取締役会で問題を追及し、不正を糺させるのが正攻法だ。やはり、初めからゴーン容疑者を退任に追い込むことが狙いで、半年以上前からの周到な準備があったとみることもできる。
メディアでは、日本政府や経済産業省がしかけた「陰謀説」まで登場しているが、政府主導というのには少々無理があるだろう。ただし、日産がここ半年、経産省に急接近していたのは間違いない。
日産は2018年6月の株主総会で、元経産官僚の豊田正和氏を社外取締役に選任した。1999年にルノーに救済を求めてゴーン容疑者がルノーから入り、改革に乗り出して以降、日本の経産省と日産の関係は一気に「疎遠」になった。一時は経産次官OBに「日産はもはや日本の会社ではありません」と吐露させるほど、役所の言うことをきかなくなっていた。それが大転換したのである。