有報虚偽記載罪はあくまで「突破口」にすぎない

今回の逮捕容疑である報酬の未記載によって、果たして投資家を惑わし、実際に被害が発生したのか。しかも、逮捕して身柄を押さえるほどの重罪なのか、というと大いに疑問が残る。

あの東芝の巨額粉飾決算ですら、ひとりも逮捕者が出ていない中で、ゴーン容疑者と側近のグレッグ・ケリー容疑者だけが逮捕された。現職の企業トップをいきなり逮捕すれば、事業運営に多大な影響が出かねない。通常ならば任意での捜査を繰り返し、逮捕するとしても株価に影響の出ない週末に行うのが常道なはずだ。

そこで多くの専門家は有報虚偽記載罪はあくまで突破口だと考えている。朝日新聞の元記者で自動車業界に詳しい井上久男氏も、「もっと凄い話が入っていると見るべき」と指摘している。

安倍政権に近い財界人のひとりも、「あれは別件逮捕ですよ。脱税か特別背任が本筋でしょう」とみる。

ヤメ検は「無罪」を主張せず、事件を「小さく」する

NHKの特別番組ではオランダに設立した日産自動車のペーパーカンパニーに、海外の高級住宅などを買わせていた“私的流用”が詳細に報道されていたが、社長宅や社用車の提供なら多くの日本企業が行っており、それを「犯罪」として断罪するのは簡単ではなさそうにみえる。日産の外国人専務が司法取引に応じてさまざまな社内証拠を特捜部に提出しているといい、今、表面に出ているものが本命ではなく、重大な背任行為などがこのペーパーカンパニーから今後明らかになってくるのかもしれない。

ゴーン容疑者の弁護人には東京地検特捜部長、最高検検事、東京地検次席検事、最高検公判部長などを歴任した大鶴基成氏が就いたという。まさに「大物ヤメ検弁護士」だが、これでひとつの「流れ」が推測できる。

通常、ヤメ検が事件を担当した場合、検察に真っ向から対決姿勢を取って「無罪」を主張するのではなく、事件を「小さく」する。ゴーン容疑者が有価証券虚偽記載罪を受け入れれば、執行猶予で収監されずに済むというシナリオだ。