【前澤】近代絵画というものに当時は、あまり興味がありませんでした。ピカソやゴッホであれば知っていましたけれども、その頃はまだどれを観ても一緒だなという印象であまり惹かれなかった。その点、現代アートはものすごく個性的なものが多いではないですか。
【秋元】強い個性に魅力を感じたということですね。
【前澤】それに、社内に飾るのが目的だったので、作品単体でどうというより、会社の内装や社員のファッションなども考慮して、その中で最も合うものがリキテンスタインだったのです。
【秋元】単なる会社のインテリアだったはずのものが、それにとどまらずどんどんエスカレートしていったということですね。
【前澤】たしかに、初めは、壁をアートで埋められればいいという程度の意識しかありませんでした。でも、引っ越して広くなると壁の数も増えるし、季節や内装が変わればそれに合わせてアートも取り換えたくなりますよね。
それで、そのたびに好きな作品を探して買い足していくと、自然と数が増えてしまった。最初からコレクションしようと思って始めたわけでないですし、今も自分ではコレクターだという意識もないんです。
アートを盛り上げるパトロンという存在
【秋元】子どものころから、クワガタやキン消し(キン肉マン消しゴム)などを集めるのが好きだったようですから、やはり集めること自体が好きなのでしょう。ただ、一点一点吟味して自分の気に入った作品を購入しているところをみると、単に収集欲を満たすためだけではなく、むしろ、もっと知りたいという知識欲のほうが強いような気がします。
【前澤】それはあるのかもしれませんね。好きな作品だとそれをどんな人が制作したのかを知りたくなりますし、その作家を知ればその作家の作品の中で一番いいものがほしくなります。ミュージシャンと一緒ですよ。このアーティストがいいとなれば、自分にとってマスターピース(傑作)を探したくなります。ジャン=ミッシェル・バスキア(ハイチ系アメリカ人の画家。88年27歳で死去)も、ものすごくたくさん観ましたけど、2017年5月に購入したブルーの作品(「無題」)こそが、僕にとってまさにマスターピースだったんです。
【秋元】よくわかります。間違いなくあの絵はバスキアのトップクラスの作品です。直島のアートプロジェクトや国吉康雄のコレクションで知られるベネッセが、やはり90年頃にバスキアの2メートルを越える作品を購入していますが、1988年に亡くなっていますが、それから間がない2年後に、すでに2億円近い値段で取引されています。それから30年弱で61倍です。あれだけの金額で買った勇気には心底敬服します。
【前澤】ありがとうございます。