まずは現状を把握しよう。弁護士の河野祥多氏によると、「お金のある60~70代の中小企業の元社長と50代女性のカップルはよくいます。普段から“俺様”的で、仕事から引退すると一挙に周りから人がいなくなり、子どもも寄り付かない。その寂しさを埋めるため、優しくしてくれる女性を求める」という。
出会いの場で目立つのは、結婚相談所だという。これは小説『後妻業』(黒川博行著)もモチーフにしている。税理士の高橋安志氏が指摘する。
「後妻業で興味深いのは、夫に身内がいなければ、相続税0円で後妻が遺産を手に入れられる点です。配偶者がもらった財産は1億6000万円か、法定相続分のいずれか多い金額まで相続しても税金がかからない。彼らにとって、結婚相談所で身内のいない男性を探せば、こんなに“美味しい商売”はないのです。旦那さんが亡くなった奥さんを狙う“後夫業”もありえる」
もちろん、「本当に真摯な恋愛もあって、『お金なんていらない』『遺言書なんて書かなくていい』という女性もいる」(河野氏)が、そんな純な恋愛と遺産目当ての色恋沙汰との境界には、しばしば金目当ての魑魅魍魎(ちみもうりょう)が蠢く。きれいごとだけを言ってはいられないのは明らかだ。
そんな遺産相続の事例を見てみよう。以下は、税理士の高野眞弓氏が東京の下町で見聞きしたケースだ。
60代の男性が小料理屋の女将と再婚。当初、「相続権なんていらない」と言っていた女将が、男性の死後に前言を翻し、自分が持つ相続権を主張。男性の子どもたちともめるようになった。
「飲食店は商売柄、人の出入りが激しいし、もしかしたら入れ知恵した人がいたのかもしれない」(高野氏)
ところが途中から意外な方向へ展開する。入籍してすぐ倒れた父親の面倒を見てくれた女将さんに恩を感じた子どもたちが、「相続が0ではかわいそうだ」と思うようになった。一悶着あったが、結局3000万円を渡してお互いが納得したのである。