確かに金銭的、精神的な被害は受けたが、それ以上に得たものは多い。そう思わないとやってられないけどね。でも本当だ。できればトラブルに巻き込まれないほうが幸せだが、巻き込まれた以上はそれを受け止めて、誠実に対処するしかない。

50歳にして天命を知る

さて「天命」だが、諦観(ていかん)と言おうか、何と言おうか、自分が選んだ人生を受け入れることなのではないだろうか。

人生って自分が選んだわけじゃないだろう。兄姉の死なんかは私が選べるものではない。その通りなのだが、兄姉に早く死なれた後、両親にこれ以上、つらい思いをさせないようにしたいと思うのは私の選択だ。

人生は、目の前にいろいろな道が並ぶ。それを瞬時に自分で選択している。後から考えると、後悔することや安堵(あんど)することも多いけれど、結局のところ自分で選んだ道なのだ。

自分で選んだ道なら、他の人を恨んでも仕方がない。自分で引き受け、選んだ道を歩くしかない。止まれば、その時に死ぬしかないのだから、歩み続けるしかない。

人生はマラソンに似ている。そうかもしれない。ゴール(死)を目指して走るしかない。しかし、そのコースは主催者が決めたのではない。自分が決めたのだ。

50歳っていうのは、そういうことが腹にすとんと落ちる年齢なのではないか。それが「天命」を知るということだろう。

まだまだこれから先の時間が、私に残されているのかどうかは分からない。しかし50代を過ぎ、60代に突入した今、それほど長い時間が残されているとは思わない。いろいろなことを受け止め、受け流しながら、無事に歩んでいきたいと思う。何事も為さないことが、何事も為すことになるのだと信じて……。

江上剛(えがみ・ごう)
作家。1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。77年、第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。人事、広報等を経て、築地支店長時代の2002年に『非情銀行』(新潮社)で作家デビュー。03年、49歳で同行を退職し、執筆生活に入る。その後、日本振興銀行の社長就任、破綻処理など波乱万丈な50代を過ごす。現在は作家、コメンテーターとしても活躍。最新刊に『一緒にお墓に入ろう』(扶桑社)。
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