これは、思わずそう聞いてしまう家族が悪いという意味ではありません。万引き依存症ということを知らなければ、家族も問い詰めたくなるのは当然です。

悪いことをしたら、反省する――一般的に疑いようのないことだと思われています。万引きを繰り返すといずれ実刑を受けることになりますが、刑務所は反省をするところです。自分のしたことを省みてから社会に戻ることが、更生にとって重要とされています。

しかし依存症の臨床の現場では、その人が反省しているかどうかにはあまり重きをおきません。なぜなら、その人の「行動変容」にあまり関係ないからです。行動変容とはここでは「万引きする自分」から「万引きしない自分」に変わることです。

「反省しなさい」と言われたとき、みなさんはどうするでしょう。相手がものすごく怒っていれば、その場を収めたいと思うのではないでしょうか。

自分が仕事のミスなど何か悪いことをしたのだとしても、上司から長時間お説教されると、「もういやだ、早く終わらせたい」と思うものです。そのときにどんな言葉を使い、どんな態度で謝罪をすればいいのか。多くの人がこれまでの人生のなかでそのスキルを身につけてきたことでしょう。

全力で反省を示すがまたすぐ繰り返す

万引き依存症者は全力で反省を示します。Gメンに捕捉されたあと、被害店舗の従業員の前で土下座までして謝罪します。もうしないと約束した家族を裏切ったときも、土下座します。警察でも「もうしません」と神妙な顔をします。そんな態度を見て「今回は本当に反省しているな」「信じてみようか」と思うものですが、ほどなくして再び万引きをする……。

その場を取り繕うための反省と、「万引きしない自分への変容」とはまったくの別物で、反省を強く求めれば求めるほどその距離は大きく開いていきます。

そこで、当クリニックでは治療プログラムをはじめるときに、その人がどれだけ反省しているかということはまったく問いません。それよりもまず「万引きをしない自分」になるための具体的な方法を学ぶことを最優先としています。