総裁選は1政党の党首選に過ぎず、公選法の対象外
3つの点を指摘したい。報道機関は、衆院選などの国政選挙や地方の首長、議会選挙などでは公選法の「虚偽の事項を掲載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」という規定などを意識し、各政党、各候補、公平な報道を心掛けている。
しかし、自民党の総裁選は1政党の党首選。有権者も党員・党友に限られており、公選法の縛りはかからない。もちろん、自民党総裁選は事実上の首相を決める選挙なので、新聞、テレビ各社は国政選挙の報道に準じて公平な報道を行うが、それは自主的な取り組みである。総裁選を主催する党側が報道内容に口出しする権利などない。
2点目は「2014年文書」がテレビ局対象だったのに対し、今回は新聞社をターゲットにしていることだ。
同じ報道機関ではあるが新聞とテレビは法的な位置づけが違う。テレビ局は放送法に基づいて総務省から周波数の割り当てを受ける免許事業なのに対し、新聞は免許を受けなくても発行できる。新聞のほうが、より自由な立場で報道できるのだ。もちろんテレビ局にも権力の介入は控えるべきではあるが、今回の要請対象が新聞社であることは、メディアへの介入がさらに一歩進んだ印象を抱く人も少なくないだろう。
「取材拒否すれば相手の報道も封じられる」という理屈か
3点目。要請内容が妙に細かいのだ。文書では、候補者の報道の「掲載面積」を平等にするよう求めている。これは問題が非常に大きい。
例えば安倍氏は9月11日から13日にかけて「東方経済フォーラム」出席のためロシアのウラジオストクを訪れる。その間、安倍氏は総裁選候補としての活動は休むことになる。日々、両候補を日々公平に扱おうとした場合、その期間、地方回りなどをする石破氏の動静の記事は極めて限定的にせざるを得ない。
新聞各紙が候補者のインタビューを企画したとしよう。しかし、もしある新聞社と特定候補の折り合いが悪かったり、物理的な事情があったりしてインタビューが実現しなかったらどうなるか。要請文の内容をそのまま解釈すれば、せっかくインタビューした候補の記事も掲載を見合わせなければならない。裏返せば、取材拒否を続ければライバルについての報道も封じこめることができるという理屈になる。