「老前整理」という言葉を提唱し、『定年男のための老前整理』(徳間書店)という著書も持つ坂岡洋子さん(くらしかる代表)は、何を捨てるか・何を残すかには基準を持つとよいという。

「役立っているもの、思い入れのあるものは捨てる必要はありません。カメラが趣味の人には、古いカメラは大切でしょうし、音楽が趣味の人の、古いレコードやCDもそうです。逆に、今後使う予定のないものは捨てたほうがよいのです」

こう話すのには、自分自身の体験がある。長年、住まいや生活家電のインテリアコーディネーターとして活動した坂岡さんは、活動の一環で、住まいのバリアフリーの必要性を感じて、実感するためにケアマネジャーの資格を取得。介護現場でも働くうちに、暮らしを軽くする(くらしかる)現在の活動に行き着いた。

「介護現場では、ものが多すぎるのを痛感しました。体の自由が利かなくなった高齢の要介護者本人が、あふれるものに囲まれて暮らしている。ただでさえ高齢で足元がおぼつかないので、ものに引っかかり転倒するリスクもあります。家族も介護に疲れ果てて、片づける時間も気力もない。だからこそ老いる前、体が元気に動くうちに整理する必要があるのです」

妻は見逃さない! ラブレターは必ず捨てること

「老後を迎える前に始めるので、40代から準備してもよい」という坂岡さんに、「捨てるもの」10項目を挙げてもらった。

坂岡洋子さんからのアドバイス
定年したら処分すべきもの

(1)2度と読まない本
(2)スーツ、ネクタイ
(3)古い機種のカメラ、オーディオ
(4)使わないスポーツ用品
(5)社内コンペレベルのトロフィー、記念品
(6)古いレコードCD、DVD
(7)写真(整理して廃棄)
(8)名刺、書類、仕事関係の新聞・雑誌
(9)古い年賀状
(10)女性からの手紙!
▼ラブレターを取っておくのは男の未練。重大な結果を招くのですぐ廃棄!

この中のいくつかを本人に説明してもらおう。まずは(2)のスーツやネクタイ。

「定年後の男性には、スーツやネクタイは過去のプライドや未練の象徴です。サイズが合わないもの、古いデザインのものは捨てて、改まった席で使う数着・数本を残せば十分です」

なかなかスーツを手放さない男性の意識に、驚いた経験もある。

「知り合いの落語家さんにお願いして『老前整理の落語会』を開催したことがあります。この会に1組のご夫婦が来られました。参加動機は『定年して何年もたつ夫が、スーツを処分してくれないから』でした。妻が夫に目を覚ましてもらおうとしたのです」

スーツは特に、身の回りの品を処分して身軽にしたい妻と、抵抗する夫との攻防戦になる。