都内の大学で講師を務めているとはいえ、基本的にはフリーランスのAさん。「大企業の看板と地位があるうちに、行動範囲を広げておくべきでした。自分の知見も、もっと深まったはず」と述懐する。

また、会社員時代の経験を踏まえて、有志の定期的な会合にはこんなアドバイスを送る。

「いろんな会に1度は顔を出してみて、楽しいか楽しくないかで判断すればよいでしょう。私の場合は、約30年前から続く『異業種交流会』では、今でも刺激を受けます。一方で、古巣の役員OB会は、出席してもまだ“最若手”なので気が進みませんね(苦笑)」

真っ先に捨てるべきは「最も輝いていた時代の自分」

前出の坂岡さんは「シニアの男性に比べて、女性の意識は10年先を行っている」という。定年になって、慌てて今後を考え出す夫に対して、妻は50代のうちから次のステージのシミュレーションを始めるという意味だ。

「総じて、現在の30代や40代は、60代以上とは意識が違いますが、日ごろの小さなことからお互いを気づかうなど、定年までに夫婦の関係を温め直しましょう」

最後に筆者の意見で恐縮だが、長年の取材経験でいろんな人を見てきた。濃密な人間関係も薄れ、都会では近所付き合いや親戚付き合いをしない人も増えた。仕事柄、さまざまな情報発信をするので「利用しよう」と近づいてくる人も多い。そうした一覧にしてみた。

真っ先に捨てるべきは「最も輝いていた時代の自分」だと思う。最近ある祝賀会に出席した際、隣席の男性(70代)がこんな話をしていた。

「以前は議員だったので、向こうの(来賓VIP)席でしたが、息子に地盤を譲ったのでこちらにいます」

「今回のパーティーは500人超の参加者だとか。私が主役のときは700人超でしたが」

〈言えば言うほど、みっともないのにな〉と心の中で思いながら聞いていた。総じて男性は「過去自慢」をしたがる。自戒を込めて記すが、今回の識者の指摘を肝に銘じたい。

プレジデント誌取材班の結論!
捨てるか拾うか定年後の選択10
捨てる
(1)最も輝いていた時代の「肩書(意識)」
(2)「利用しよう」と寄ってくる人(投資話も含む)
(3)面倒な親戚付き合い
(4)内容が想像できる「飲み会」と「二次会」
(5)仕事・趣味で使わない「本・雑誌・資料」
(6)10年以上使わない「衣類」「靴」「カバン」
拾う
(7)仕事に追われてできなかった「趣味」
(8)気軽に「食事に誘える」人
(9)「肩書なし」で付き合える友人・知人
(10)「新たな視点」を与えてくれる若い男女
▼老後のためには捨てるばかりでなく「拾う」ことも大切
樋口裕一
多摩大学名誉教授
翻訳家、音楽評論家。小論文・作文通信指導塾「白藍塾」塾長。1951年、大分県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、立教大学大学院博士課程修了。『頭がいい人、悪い人の話し方』ほか著書多数。
 

坂岡洋子
老前整理コンサルタント
くらしかる代表。1957年生まれ。インテリアコーディネーターを経て、介護現場でモノが多すぎる実態に触れ「老前整理」を提唱。著書に『老前整理』『定年男のための老前整理』などがある。
 
(撮影=大杉和広、熊谷武二 写真=iStock.com)
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