思い入れあるもの役立つもの、それ以外は捨てる

大切なのは「おべっかよりも自分自身を高めること」と話す樋口さん。「フランス語」では大学教授になれなかったが、代わりに「小論文」が評価されて関連参考書も100冊以上書き、その延長で著した「話し方」の本が売れ、日本語文章術で教授職に就いた。「フランス語の敵を日本語で討つ」人生だったのだ。

「意識して磨いたつもりはありませんが、昔から1人で行動するのも好きでした。自室でのクラシック音楽鑑賞、1人ごはん、1人旅行……。家族も似ていて、一家で会食する場合も現地集合・現地解散です」。つかず離れずを実践した生き方だ。

大分県日田市出身の樋口さんは、大学時代から東京で暮らしてきた。16年、91歳で父が亡くなり、90歳の母は東京都内の老人ホームにおり、週に何回か会いに行く。子供たちも東京で生まれ育ち、大分との縁も薄くなって整理したものがある。

「生家近くのお墓を『墓じまい』しました。親も大分県から東京都に移り、親戚付き合いもほとんどない。現地に行くまで時間と費用もかかるので、東京の自宅近くにお墓を移したのです。ずっと気になっていたので、スッキリしました」

自家用車も変えた。「長年、トヨタ車を乗り継いでおり、最近は『プリウス』から『アクア』にしました。今は夫婦2人で行動することが多いので、サイズを小さくしたのです」。

体が動くうちに、と計画を進める樋口さんだが、やり残したことも。

「家の中のものが溜まっています。自分なりに懸命に働いて、あれこれものを買い込み、豊かな生活をめざしました。その結果、必要な家財道具のほか、不必要な日用品も増えましたし、大量の本やCD、DVDもあります」

悩ましいのは、今後の執筆や講演活動に必要な本も多いこと。また、CDやDVDの中でもクラシック音楽は趣味であり、時に仕事にも活用する。夕刊の連載記事には「心の整理とともに、思い切って捨てる必要があると考えています」と書きながら、まだ片づけられない。

自分の身の回りを振り返ると、樋口さんのような悩みを持つ人は多いかもしれない。

樋口裕一さんからのアドバイス
定年後の7戒
(1)飲み会参加は控える
(2)同窓会は行かない
(3)実家や田舎の墓を整理する
(4)クルマは小さいものに乗り換える
(5)駅前へ転居する
(6)夫婦で行動しない
(7)「孤独力」をつける!
▼夫婦で行動したがるシニアは多いが、それだと世界が小さくなるので注意