バブル崩壊が起きる可能性は40%
では、中国経済がハードランディングする可能性はどの程度か。潜在的な不良債権が多い背景には、近年の与信急拡大がある。2011年から16年にかけて銀行融資残高の対GDP比は112%から143%へと5年間で31ポイントも高まった。銀行のオフバランスの与信拡大を加えれば、この数字はさらに高まる。
これまでの先行研究で、与信の拡大ペースが経済規模に対して速すぎると、金融危機に陥りやすいことがわかっている。IMFの研究によると、これまで全世界において過去5年間で総与信の対GDP比が30%ポイント以上高まった国はのべ42カ国あった。その内18カ国が5年以内に金融危機を伴うハードランディングに陥ったという。
つまり、中国と同等の与信膨張がみられた42カ国のうち、18カ国、割合にして43%の国で金融危機が発生した。したがって、筆者は中国で5年以内にバブル崩壊による景気失速がみられる可能性は40%と見ている。
もし、うわさや一部の金融機関の破綻が取り付け騒ぎなどによって連鎖しだすと、金融危機が発生しかねない。実際、近年には債務超過に陥る中小金融機関が出現し、取り付け騒ぎも複数回発生した。そうした状況下では、銀行間の資金の貸し借りがスムーズになされない状況が発生することで、銀行から企業への貸し出しも滞るようになり、やがて企業間での買掛金や売掛金による仕入れや出荷も、相互不信が強まるなかで減少する恐れがある。
以上、検証してきたように、不良債権の実態は公式統計を大きく上回るとみられるだけに、何らかのきっかけで金融危機が発生するリスクは払拭できない。歪んだ金融システムを改めない限り、いずれ不良債権問題が中国経済の持続的な成長のボトルネックになると懸念される。
もし中国で金融危機が発生すれば、経済成長率が現在の6~7%から3%台に低下し、労働需要が大きく減少する恐れがある。例年、中国では農村部から都市部に1000~2000万人流入するが、その受け皿がなくなってしまう。そればかりでなく、雇用調整の動きが農村から都市に流入する農村戸籍者ばかりでなく都市戸籍者(同じ中国でも戸籍は都市と農村の2種類に分かれる)に及ぶことも避けられない。数百万人規模の大失業の発生は、1949年から続いてきた共産党による一党独裁の政治体制を崩壊させる可能性すらある。
日本総合研究所副主任研究員。1981年中国・上海市生まれ。91年に来日し、家族と共に日本国籍を取得。2004年早稲田大学政治経済学部卒業、06年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了。野村證券金融経済研究所などを経て、08年日本総合研究所研究員。15年から現職。18年拓殖大学博士(国際開発)。専門は中国経済・金融。「社債市場からみた中国のモラルハザード問題」日本総合研究所『環太平洋ビジネス情報RIM』2017 Vol.17 No.64など論文多数。