机上の試算ではなく、科学的な検証をもとに論じるべき

8月に行われたNHKと朝日新聞の世論調査によると、いずれもサマータイムの支持は過半を超えている。これは今回に限った話ではなく、これまでも世論はサマータイムに対して好意的だった。それにも関わらず法案提出には至らなかったのだから、今回もサマータイムの導入は難しいのではないかという見方もできる。

しかしながら衆参で過半数の議席を持つ安定政権にあって、オリンピック推進のためであれば野党にも支持が広がり得ることを考えると予断を許さない。オリンピックの開会式や閉会式の前後に休日を集中する改正大会特別措置法には共産党を除く各党が賛成した。報じられている通り今秋の臨時国会で提出を目指すとなると、十分に議論を尽くすだけの時間がない。超党派で議員立法の機運が盛り上がれば、一気に審議が進む展開も考えられる。

仮に秋の臨時国会で法案を通すとして、オリンピックまでは2年を切っている。必要となる予算措置や要員の確保まで考えると、実際に夏時間への対応にかけられる時間はさらに短い。仮にサマータイムが国会で審議されるのであれば、その効果については机上の試算ではなく、実際にサマータイムを実施している国々での科学的な検証をもとに論じていただきたい。

そしてサマータイムに反対する場合も、単に費用がかさむ、時間的に難しいというだけでなく、検討の端緒となったオリンピックの猛暑対策について、一緒に知恵を絞ってはどうか。

何より大切なのは、プロセスの記録と公表

そして何よりも大切なことは検討のプロセスを記録に残し、広く公表することだ。

この記事の執筆にあたり、戦後のサマータイムへの取り組みについて多くの資料を探したが、占領下でのサンマー・タイム法の成立や、2011年の民主党政権下でのサマータイム検討については断片的な資料しか見つけられなかった。これまで数年おきにサマータイムの議論が復活し続ける背景に、その時々の検討が十分に公表されていないこともあるのではないか。

もし仮にサマータイムに実際に効果があるのであれば、オリンピックには間に合わなかったとしても計画的に実施すべきだし、効果を期待できないのであれば検討経緯を残して後世に伝えることが大切だ。全ての人々の生活に影響する重要な問題であるだけに、時の雰囲気や勢いに流されるのではなく冷静に議論することが肝要だ。

楠 正憲(くすのき・まさのり)
国際大学グローバルコミュニケーションセンター 客員研究員
インターネット総合研究所、マイクロソフト、ヤフーなどを経て、現在は銀行系FinTech企業でCTOを務める。2011年から内閣官房の補佐官としてマイナンバー制度を支える情報システムの構築に従事。ISO/TC307 国内委員会 委員長としてブロックチェーン技術の国際標準化に携わる。
(写真=iStock.com)
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