歩くことができず、寝返りも打てず、言葉も話せない
亜由未さんは、歩くことができず、寝返りも打てない。言葉も話せない。24時間365日、介助が不可欠な重症心身障害者である。亜由未さんは言葉を話せないが、声や表情、わずかな身ぶりなどで自分の意思を伝える。言語以外のコミュニケーション手段を駆使して、周囲の人たちと交わっている。
亜由未さんの姿を目にした子供の多くは、その姿に驚き、思わず凝視するのだという。初めはおそるおそる、けれど次第に興味をもって近づいてきて、慣れると「あゆちゃーん」と声をかけるようになる。いつも視界のなかに亜由未さんがいることで、彼らのなかで障害者と健常者という区分けがなくなるのだろう。
亜由未さんの母、智恵さんは「日々の暮らしのなかで、身近に障害者が当たり前のようにいることが重要だ」と言う。そのような状況を作れれば、互いの心の垣根を低くすることができる。
どんな人でも、明日、障害者になるかもしれない。亜由未さんと家族は、健常者と障害者の間に立ちはだかる“壁”を、少しずつ乗り越えてきた。そこには障害の有無にかかわらず、誰もが生き生きと暮らせる社会へのヒントがちりばめられている。