残された可能性は、シェアリング・アプリのような、未知の市場を掘り起こすことだが、そこでは、既存の市場とは異なり、いかにデータを集め、精緻な分析を重ねても、確実な未来の予測はできない。そもそも、まだ出現していない市場についての確実なデータなど、存在しないのである。

エニタイムズだけではない。こうした領域に挑むときには、失敗の効用が高まることを忘れてはならない。

失敗は起こる、重要なのはそこから何を学ぶか

起業や新規事業創出の達人とは、失敗しないことの名人ではない。S.サラスバシの主著、『エフェクチュエーション』(碩学舎刊、2015年)は、起業家に焦点をあてたエキスパート(熟達者)研究の成果である。そのなかでサラスバシは、次のように述べている。

「長期にわたって持続的に成功するには、熟達した起業家が(略)失敗と成功の両方から学ぶことが必要である。」(p.18、傍点筆者付記)

起業あるいは新規事業開発のような、高度にチャレンジングな活動においては、失敗は避けがたく起こる。

特にサラスバシがとりあげる、それ以前には存在しなかった新領域を切り開くような起業(たとえば、インターネットが黎明期の1990年代なかばにおける音声同時配信ソフトの事業化など)においては、過去の経験にもとづく予測が通用しないことが多くなる。したがってそこでは、失敗のマネジメントが重要となる。失敗の効用を引き出すことが、起業や新規事業開発における可能性の拡大につながる。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
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