もちろん長期的には、女性の意識も変化していくことが考えられるが、それを待っていては、起業の機会を逸する。エニタイムズは、起業の海にこぎ出すことで、社会の規範による制約のなかに潜在していたユーザーをとらえることに成功している。

ディー・エヌ・エーとの幸運な出会い

起業にあたっては、資金調達においても見込み違いがあった。後述する失敗もあって、起業後の1年で角田氏は用意していた資金をほぼ使い果たしていた。当初はユーザー登録の伸びも緩慢だった。一方で角田氏はエニタイムズ以外にも事業を立ち上げており、当時はそちらの収入がメインとなっていた。

そのなかで角田氏がエニタイムズに専念することにしたのは、株式会社ディー・エヌ・エーから出資の申し入れがあり、5000万円ほどの資金が調達できたからだという。行き詰まっていたエニタイムズは、さらなるシステム投資が可能になり、成長軌道に乗る。

人は経験に学ぶとともに、経験に縛られる。角田氏は大学卒業後に、大手証券会社で働いていた。その体験から、実績も何も無い小さな個人企業に対して、大手企業が出資を行うはずがないと思い込んでいたという。ディー・エヌ・エーの担当者がエニタイムズを見つけ、このビジネス・モデルには将来性があると判断しなければ、角田氏は別の道へと歩みを進めていたのかもしれない。

システム開発の失敗という災い転じて

エニタイムズの起業における、より深刻な見込み違いは、初期のベータ版サイトの構築時に起きていた。この時点での角田氏には、システム開発の経験がなかった。そのために発注先のエンジニアたちはバラバラのコードでプログラムを書き進めてしまっていた。いわゆるスパゲッティ・コードといわれる、ページ起動にやたらと時間がかかるうえ、メンテナンスや機能の追加が困難なサイトになっていた。

未経験者の初歩的な失敗である。このとき角田氏はエンジニアの意見に耳を傾け、つくったサイトをすべて捨てて、一からやり直すことにした。

しかし、「今となって見ると、ここで失敗を受け入れていたことがよかったんです」と、角田氏は語る。結果的にエニタイムズはベータ版から一貫して、必要な機能が織り込まれているだけではなく、シンプルで動きが軽いアプリを提供してきた。

加えて現在のエニタイムズでは、事業の第2の柱が育ちつつあるという。複数の企業から、その企業の社員あるいは会員向けのシェアリング・サービスのためのアプリの開発案件が舞い込むようになっている。

この領域については、初期の失敗などを踏まえて蓄積してきた知見がある。同種のアプリの開発には、どこにどのような落とし穴があるかがわかっており、短期間での安価な開発が可能である。この強みが評価され、新たな市場が広がっている。

今の日本のなかでは、多くの企業が、既存の市場にしがみついているだけでは、小さくなるパイを奪い合う消耗戦に陥る状況にある。