「日焼け止め禁止」のリスクとベネフィット
従来、日焼けは健康の象徴のように捉えられていた。だが、現在では紫外線がもたらす健康リスクへの関心が高まっている。実際に、日焼け止めの使用は多くの学校において、一定のマナー(例:無香料・無着色、使用場所の限定など)のもとで認められている。
他方でいくつかの学校が、日焼け止めの持ち込みに抵抗を示すのも理解できる。そこには教育的効果というベネフィットがあるからである。すなわち、生徒の教育にとっては、学校にオシャレや美容に関連するものを持ち込ませないことが重要なのだ、という見解である。
たとえば、髪の色を黒く染めさせる「頭髪指導」のように、もし髪の長さや色を自由にしてしまえば、それは非行を助長し、学校全体の規範意識を低下させてしまう――。学校側はそう考える。だから、髪の毛のスタイルを限定し、日焼け止めだけでなく、リップクリームや制汗剤も禁止にする。
こういった教育的効果というベネフィットの是非は、いまはいったん置いておく。ここで問題にしたいのは、日焼け止めを禁止・制限したその結果、健康被害というリスクが現実化されてしまう点にある。
WHOは「学校が日焼け止めの重要性を教えるべき」
多くの学校は、日焼け止めの使用を「認める」という姿勢であるように思われる。だが、「認める」という発想から、「勧める」という姿勢に変わる必要がある。日焼け止めを使えば、健康被害を減らすことができるからだ。
学校や教員によっては、そこまで踏み込んで使用を推奨している場合もあるようだ。「健康上の特別な理由がある場合のみ許可する」という態度は、もはや時代遅れであると言えよう。
日本臨床皮膚科医会は「学校生活における紫外線対策に関する具体的指針」(2011年10月)において、「サンスクリーン剤を上手に使う」ことを提言し、「たっぷりと均一に」「2、3時間ごとに重ね塗りする」ことを勧めている。
真夏の部活動ともなれば、汗の量も多いだけに、自宅で1回塗るだけではまったく不十分である。また、自宅で塗るだけにすると、長時間効果のあるもの(「SPF」の値が大きいもの)を選ぶことになり、それは肌への負荷を大きくしてしまう。
WHO(世界保健機関)は2003年の時点で、「日焼け防止と学校:いかに効果を生み出すか」という冊子を作成している(図2)。そこで強調されているのは、子ども時代に紫外線を浴びることが後の人生に大きな負の影響をもたらすということである。
同冊子は、炎天下での部活動は、肌をやけどするだけでなく、長い人生においても健康リスクを高めてしまうと指摘する。そして、それゆえ学校においては教育の一環として、日焼け止めの重要性を積極的に教えていくべきと主張している。