「健康被害」と「学習」を天秤にかける
学校では、リスクとベネフィットがそのまま天秤にかけられることはない。先の例で言えば、暴風雨のなかコンビニに行くか、行かないかが素朴に比較検討されることはない。
学校は、コンビニに行って商品を手に入れる、というベネフィットを優先する。先述のとおり、学校は教育をおこなう場であり、そして教育という名の営みは、ベネフィットそのものだからである。
ベネフィットが優先される状況下では、リスクが軽視されやすくなる。だからこそ、あえてリスクの側面を強調することに意味がある。
冒頭の豊田市での死亡事故も、「健康被害」と「学習」を天秤にかけたとき、前者のリスクが高い場合には、屋内での安全な活動に切り替えるという選択がとられるべきである。だが、そのリスクを引き受けてまで、ベネフィットとしての校外学習を実施しようとする状況があった。そして、それはこの学校特有のものではなく、学校教育全般に存在するものなのだ。
医師のお墨付きがなければ、使ってはいけないのか
ここで取り上げたいのが「日焼け止め禁止」という校則だ。日焼け止めクリームは、紫外線をブロックすることによって皮膚を守る効能をもつ。とりわけ真夏には必携のアイテムと言ってよい。ところが、一定数の学校では、日焼け止めの使用を禁止したり、制限したりしている。
表に、ここ数年の範囲内で日焼け止めクリームを禁止している学校の事例をあげた。
日焼け止めや制汗剤は、原則として家で塗るのみとし、学校での使用は認めません。健康上の事情により学校での使用が必要と認められる場合には、担任または部活動顧問に「使用理由書」を提出してください。
●B中学校 学年通信
学校生活に必要のないものは、持参しない。
例)リップクリーム、制汗剤、日焼け止めは原則禁止とする。薬用で健康上必要な場合には、担任の許可を得る。
●C中学校 学年通信
▽体育大会の練習について
制汗剤、汗ふき用シート、日焼け止めなどを学校に持ち込むのは禁止です。皮膚の病気などの理由で日焼け止めの使用を医師が勧めている場合には、担任に申し出てください。
※学校の匿名性を確保するために、文意を損ねないかたちで大幅に編集している。
これらの事例の類似性は高い。第一に、学校での使用を禁じている(自宅であらかじめ塗るのは認める)。そして第二に、健康上の理由がある場合のみ使用を許可するとしている。