マハティール氏の衰え知らずの人気と求心力
当初、ナジブ政権はブミプトラ政策の見直しや外資規制の緩和など自由化政策を推進して国内外の投資の活性化を目指した。しかし、自ら創設して経営にも関与してきた政府系投資会社(1MDB)で巨額の負債が発覚、さらには一族が絡んだ不正疑惑や1MDBからナジブ氏の個人口座への不正送金疑惑が噴出する。
政権批判が高まるとナジブ前首相は強権政治に転じて、首相の責任を追及する野党やメディア、ジャーナリストなどを弾圧。釈放後、野党の指導者として政権批判を強めていたアンワル氏は14年に再び同性愛容疑で逮捕、収監されてしまう。
首相退任後のマハティール氏は政権与党「統一マレー人国民組織(UMNO)」の長老的立場で、時の政権を批判したり、注文を付けたりしていた。マハティール氏は自ら政権でナジブ氏を閣僚に起用していたし、ナジブ政権発足当初の関係は良好だった。しかし政策が意に沿わないことから徐々に政権批判を強め、1MDBの疑惑が浮上すると公然と退陣を要求するように。党内の権力闘争も絡んでついにはUMNOを離脱、新党を結成し、野党連合の議長として5月の総選挙に出馬した。
建国以来、政権交代が1度もなく、政権の締め付けが厳しい中で、にわかづくりの野党連合が勝つと本気で信じていた国民はほとんどいないだろう。しかし、マハティール氏の衰え知らずの人気と求心力に加えて、服役中ながらやはり国民人気の高いアンワル氏との関係を修復して共闘できたことも選挙戦を盛り上げて、野党連合に地滑り的な勝利を呼び込んだ。
92歳でも声のトーンは昔とまったく変わらない
首相に返り咲いたマハティール氏は、消費税を廃止して高速鉄道計画の中止を発表するなど、前政権の政策を次々と撤回している。またナジブ夫妻の出国を禁じて不正疑惑の捜査にも着手、初の政権交代の成果を国民にわかりやすく示している。本業が医者だから、よほど健康管理をうまくやっているのだろう。
ニュース映像を見ていても発言内容はしっかりしているし、声のトーンも昔とまったく変わらない。恐るべき92歳である。それでも首相を続けるのは長くて2年、短ければ1年以内にアンワル氏に職責を譲ると思う。それは選挙公約にも掲げていた。
マハティール氏は首相になった次の日に国王にアンワル氏の恩赦を願い出て、数日後にアンワル氏は釈放された。「しばらく家族との時間を大切にしたい」というコメントしか残していないが、アンワル氏もやる気はあると思う。ただし、恩赦で自由の身になっても、若かったアンワル氏も、もう70歳。しかも国会議員ではないから今はまだ首相にはなれない。いずれ、どこかの補欠選挙にでも出馬するのだろう。