褒めるときは嘘をつかない

「褒め」は本心からでないとダメだと僕は思っています。ただ、褒めポイントに困ることもあることは確かです。

バラエティプロデューサーの角田陽一郎さん

たとえば、僕は『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)で一緒に仕事をしていた、いつもチャーミングな尊敬する俳優・大竹しのぶさんの演劇をよく見に行きますが、終わってから楽屋に挨拶に行く時には当然、感想を述べることになります。

問答無用でおもしろかったらよいのですが、問題はその演劇がいまいちピンと来なかった時。もちろん「あんまりでした」とは言えません。

とはいえ、本心を隠して「おもしろかったです」と言っても、もしかするとご本人も「今回はいまいちだった」と思われているかもしれない。そこを不用意に「おもしろかった」なんて言ってしまったら、「角田は演劇を見るセンスがない」と思われてしまう。僕の商売的に、それはそれでまずい。

そもそも相手は大女優の大竹しのぶさんですから、適当にお茶を濁した言葉が通じるはずがありません。本気で批評しないとトークが成り立たないのです。

そこで僕は「今日も大竹さん可愛かったですね」と言います。老婆の役でも貴婦人の役でも猟奇的な役でも、何をやってても「可愛かったです」でいける。

「本当? だって今日おばあちゃん役よ」「いや、でも大竹さんしかできないですよ、あんな可愛いおばあちゃん」とか。

褒め方ひとつで物事はうまく回る

なぜそれが通じるかというと大竹さんは本当にかわいくて、そこに関しては僕は嘘をついていないからです。

褒め方ひとつで、物事はうまく回ります。微妙だった映画や番組の感想を求められた時、僕がよく言うのは、「この時期に、これやりますか!」。出来はともかく、そういう企画をやってのけた勇気を褒めているわけです。

「この、テンポが早い演出が普通のご時世に、ここまでスローなのをやりますか!」「この手でいきますか!」なんかも多用します。

運を開く褒め方。皆さんも研究してみてください。

角田陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。
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