「今のバラエティ番組は、勢いがなくてつまらない」。バラエティプロデューサーの角田陽一郎さんは、ある番組を観ていてそう思ったそうです。そしてその理由を、「手作業だったアナログ時代に比べて、今は手間をかけずにバランスよく映像を編集できるようになった。その結果、整いすぎてテンポが悪くなっている」と分析します。角田さんが「整ったものはむしろおもしろくない」と考える理由とは――。(第3回、全5回)

※本稿は、角田陽一郎『運の技術 AI時代を生きる僕たちに必要なたった1つの武器』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

テンポよく整えるのが編集

京大卒の高学歴芸人として知られているロザンの宇治原史規さんが出ているクイズ番組を見ていて、思うところがありました。編集の仕方についてです。

写真=iStock.com/batuhan toker

当たり前のことですが、生放送ではない通常のテレビ番組は、撮ったものをそのまま放送するわけではありません。そのまま放送すると冗長になるので、だらだらしたやり取りや、それほど盛り上がらなかったトークなどをカットして、視聴者がストレスなく、テンポよく見られるように整える。これが編集です。

たとえば、全部で10問出題されるクイズ番組を2時間分収録して、1時間番組用に編集するとしましょう。

1問目は、問題が出されて解答者が悩んでいるやり取りの場面をリアルタイムで大半残しますが、2問目はその部分をちょっと短くする。3問目以降はさらに短くして、場合によっては考えている最中の模様をほぼカット、おもしろいリアクションだけを残す。そのほうがテンポがよくなり、視聴者は快適に見られるからです。

アナログ編集に引き込まれるのはなぜ?

昔は撮影した素材が「テープ」だったので、この編集作業をアナログでやっていました。昔のカセットテープでマイベストミュージックを作る作業と基本は同じ。

音源のレコードやCDから好きな曲を好きな曲順で録音していきますが、4曲目まで完了した時点で「あ、やっぱり2曲目を別の曲に変えたい」となったら、テープをわざわざ2曲目の頭まで戻って再録音する必要があります。

昔の編集作業はこんな感じだったのです。つまり、なんとなくの感覚で頭から順に編集していくと、8問目くらいで「あと2分しか残ってない! やばい、10問なんて収まらない!」みたいなことがよく起こるのです。

ではどうするかというと、巻き戻してやり直すのは面倒くさいので、9問目と10問目は解答の瞬間しか見せないような編集で乗り切る。丁寧に見せていた1問目、2問目と全然テンポが違う、悪く言えば竜頭蛇尾みたいな編集になっているわけです。

一方、今はPCでデジタル編集ができるので、「2曲目の頭」まで物理的に巻き戻すような作業をする必要はありません。全体を何度も見渡して、「1問あたり15秒ずつ短くする」みたいなことも簡単にできます。

ですから昔の番組と今の番組を比べると、編集の完成度という意味では確実に今のほうが整っている。バランスが取れているのです。

ところが、です。実際に編集されたものを見てみると、明らかに「竜頭蛇尾」だった昔のアナログ編集の番組のほうが勢いがある。引き込まれる。気持ちよく見られる。

これは一体どういうことなのでしょうか?