「悪行」を世に知らしめることが課題
ショーにはトラブルもつきものだ。こんなこともあった。子どもの笑いを取るポイントに「かんちょう」をする場面を設定したときのこと。スタッフの社員はアクションに気合いを入れすぎて、なんと中指を骨折。しかし、これも当然かもしれないが、同社は「きちんと」(笹井さん)労災申請した。
企業のプロモーションから結婚式まで、「主役」がいる限りヒールの出番はやってくる。秘密結社が昨年手掛けたショーは約200本。クライアントに合わせてストーリーを構成するので、当然手間がかかる。労働基準法の第41条には、 労働時間等の適用除外の例として「経営者と一体的な立場で人事権や経営にかかわり裁量権をもつ者」が挙げられている。
そう、社長はなかなか休めない。
秘密結社は今年1月、テレビ東京の経済ドキュメンタリー番組に取り上げられ、注目を集めた。ショーの依頼は全国から舞い込んでいる。昨年11月には東京に支社を設置、さらなるビジネスの展開をうかがう。
各地にひしめく、ゆるキャラやご当地ヒーローの傍らで「悪役専門」というブルーオーシャンを切り開いてきた約2年半。笹井さんは今、可能性と課題の両方を感じている。
可能性はなんといっても、ヒーローショーそのものの価値だ。
「ゲームも遊びもイベントも、一方的に作り手が提供するだけのスタイルは、もう『おなかいっぱい』。お客さま自身が参加していることが大事。昔は作り置きのパッケージのショーで通用したかもしれないが、今はお客さまを巻き込む双方向のものを作っていかないと。そういう意味では、楽しんでもらいながらプロモーションもできるヒーローショーは、エンターテインメントビジネスとして機動性が高い」
課題は、結社の「悪行」を世に知らしめる手段が少ないこと。特撮番組のヒーローと違い、ヤバイ仮面にはメディアがない。露出を増やしたいが、知名度がなければ声がかからない。その知名度を上げるには、露出が不可欠――。そんな「ニワトリと卵」のようなジレンマはヤバイ仮面に限らず、多くの芸能関係者に共通する悩みだろう。