「駅前に下水処理場」という発想
通常、下水処理場は市街地の端っこに位置する。マンションの住民は「汚泥や排水で匂う」と言うかもしれないし、レストランやデパートの経営者は「客足に影響が出る」と言うかもしれないためだ。人が最も集まる駅前は論外であり、「駅前に下水処理場」という発想にはなかなかならない。
だが、新宮町は「駅前に下水処理場」という方向へ進んだ。逆転の発想である。「住宅が売れなくなる」「商業施設が来なくなる」など否定的な意見ばかり聞かされていたものの、「駅前に下水処理場」で合意を取りつけて2001年に「都市計画マスタープラン」を策定した。
そこで識者の意見を入れてたどり着いたのが「下水処理場=環境との共生」という構想である。下水処理場「中央浄化センター」を地下に埋設し、地上に緑豊かな公園を整備するというのだ。駅前には駅前広場と一体化した公園が出現し、広大なオープンスペースを生み出す格好になる。
2010年には待望の新宮中央駅が開業すると同時に浄化センターが完成。沖田中央公園には多様な樹木が植えられ、浄化センターでオゾン処理された水は公園のせせらぎ水路や近隣施設のトイレで再利用されるようになった。副町長の福田猛は「水は高度処理しているから匂わないですよ。公園では子どもたちが水遊びしていますが、体に触れても大丈夫。最初は信じられなかったですけれども」と話す。
リーマンショックも乗り越えた「新宮方式」
大型商業施設の誘致も順調に進んでいた。2004年にイオングループが事業認可の申請を行い、ショッピングモールの建設に向けて地権者とのあいだで仮契約を結んでいた。
ところが、新宮は2008年9月になって想定外のハプニングに見舞われた。アメリカを震源地にした金融危機「リーマンショック」が発生し、日本を含めて世界は瞬く間に悲観論一色になったのだ。イオンは動揺し、「テナントの確保など安定した運営が難しい」との理由から翌年の2009年1月に出店を断念した。
新宮ではイオンの出店を見込んですべてが動き出していただけに、影響は大きかった。マンションの建設計画はいっせいにストップ。新宮生まれの福田は当時を思い出して「一瞬ですべてが浮いた状態になりました。茫然としてしまいましたね」と語る。
イオンの出店断念から半年後に再び状況は一変した。イケアが福岡都市圏に新規出店する計画で、候補地の一つに新宮も含まれているとのニュースが飛び込んできたのだ。それを受け、新宮側もイケアに対して積極的にPR活動を展開した。