裁判所から勤務先へ書類「貴殿の給与を差し押さえる」
達也さんは離婚から9年間、養育費を欠かさず毎月払ってきました。これまでの支払額は9年間で1人あたり432万円、2人分で864万円となります。
長女の高校の卒業式、会社の入社式、アパートへの引っ越しに立ち会うことはできなかったのですが、それでも長女は父親にLINEで「これから大変だけど頑張るよ!」とメッセージを送ってきたそうです。「立派になったな」。達也さんは長女が社会人となったことを実感しました。
これまで元妻(親権者)に養育費を支払ってきたのは法律上、親に扶養義務(民法730条)が存在するからです。未成年で学生の子が自分の生活費や学費を稼ぐのは困難だから、学生の間は親が子を扶養すべきです。しかし、子が就職して学生ではなくなり、自分で生活費や学費を稼げれば、同居していない親は親権者に対して子の養育費を支払う義務はなくなることになります。
▼元妻が「債権差押命令の申立」を行った
ところが、長女が社会人として歩み始めた5月の大型連休明けに、地方裁判所から達也さんの勤務先へ、何の予告もなく3つの書類が入った封筒が送りつけられたのです。
「何だ、これは……」
書類には「貴殿の給与を差し押さえる」と書かれていました。一体、何が起こったのでしょうか。実は、元妻が地方裁判所に「債権差押命令の申立」を行ったのです。長女は就職し、ひとり暮らしをしています。それにもかかわらず、妻はいきなり裁判所を通じて、強硬手段にでたわけです。
驚くべきことに裁判所は、元妻の申立内容を鵜呑みにして、長女の現況(就職し、母親の元から自立したという事実)について調査せず、また達也さんへの聞き取りもせず差押命令を出しました。裁判所は「長女はまだ学生で、元妻と一緒に暮らしている」と判断したのです。
債権差押命令の主な対象は「給与」です。この申立により達也さんの勤務先は、達也さんへ給与を支払う前に、天引きする形で、元妻の口座へ直接、養育費の未払い分(長女が働き始めてからの4月、5月分。月4万円×2カ月=8万円)を振り込むことになります(民事執行法167条の15)。
この未払い分がクリアになった後も毎月4万円を達也さんの給与から天引きして元妻の口座に振り込まれます(なお、給与差押の上限は給与手取り額の2分の1)。