インテルは約1兆7000億円の企業買収を実施

第二の陣営は、半導体の王者インテルです。パソコン用CPUでは圧倒的な強さを持つインテルも、スマホやAI用半導体では守勢に回っています。そこでインテルは、CPUよりも高速処理できる半導体FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)に強いイスラエルのモービルアイを約1兆7000億円で買収するなどして、本格的にAI用半導体分野に参入しました。

第三の陣営は、スマホでの強みや知見を車載半導体やAI用半導体に活かしたいクアルコムです。欧州の自動車業界との関係が強く、バイドゥの自動運転プラットフォーム「アポロ計画」へも参画しているオランダのNXPを買収することを発表しています。

そして第四の陣営として、アマゾン、アップル、グーグルなどAI用半導体を自社開発・内製を始めたメガテック企業が挙げられます。表向きには、自社のクラウドサービスやデータセンター向けにAI用半導体を使用することを目的としていますが、メガテック企業もまた次世代自動車産業に向けて準備を進めるなか、AI用半導体の覇権争いに加わってくるのは不可避でしょう。中国の大手IT企業も次世代自動車産業への参入のなかで、AI用半導体の自社開発も視野に入れています。

以上の4陣営のほかにも、数多(あまた)のプレイヤーが存在します。エヌビディアが提供する半導体とは階層が違う製品群の企業にはなりますが、2017年には売上高・シェアでインテルを超えた韓国のサムスン、日本勢ではすでにAI用半導体の分野へ進出した東芝、デンソー、ルネサスなどの動きも見逃せません。

パソコン市場の頭打ちがささやかれ、CPUの将来需要も懐疑的と見られる一方、AI用半導体の需要は飛躍的に伸びてきています。これは、半導体メーカーの生き残りをかけた戦いでもあるのです。

グラフィックス処理の技術をAIに活用

AI用半導体の覇権をめぐる戦いの主要プレイヤー、エヌビディアとインテルを概観してみましょう。

まずは、グラフィック処理技術に優れた企業で「GeForce」シリーズなどの製品で知られてきたエヌビディア。グラフィックボードに使われるグラフィックチップを開発してきた会社です。それが近年は、AIコンピューティングやAI用半導体を語るのに不可欠な企業に成長してきました。これまでグラフィックス処理で培ってきた技術が、ディープラーニングに必要な並列演算・行列演算を処理する技術と共通していたからです。

アニュアルレポートによれば2017年の売上高は69億ドル、営業利益は19億ドルです。このうちGPUが売上高の約84%を占めました。