オールジャパンでの大戦略が求められている
自動車産業、IT・電機・電子産業などに従事する多くの人たちと話をしてきたなかで、実は中国をどのように見ているかで、その人の問題意識や危機感の水準、そしてその人が所属する企業の変化のスピードを判断できることに気がつきました。本書でさまざまな市場データも掲載したように、今や中国市場は次世代自動車産業、AI、IoT、ロボットなど、すべての主要産業における競争の主戦場なのです。
歴史を大局的に見ると、これからさらに成長していく国家は自由貿易主義を唱え、成長に不安を抱える国家は保護主義を唱えてきたことがわかります。また10年単位でグローバル市場での国家間の戦いを振り返ってみると、国力以上の為替レートの評価の下で戦わざるを得なかった日本と、したたかに人民元安を継続してきた中国という構図も見逃せません。そして主要産業における競争の主戦場である中国においては、実際には熾烈な戦いが繰り広げられており、その勝者がグローバル展開した場合の脅威を過小評価すべきでないことは明らかです。
かつて米国は、日本が急成長を遂げていた時代に、過激な「ジャパン・バッシング」を行った一方で、冷静に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」として日本を研究し、競争力を取り戻したという経験を持っています。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授の書いた同名の書籍は、米国の企業のみならず政府にも大きな影響を与えたと言われています。
本章の冒頭でも述べた通り、日本においては、中国を侮ったり、目を背けたりするのではなく、また過大評価するのでもなく、その動向を注視し、学ぶべきところは学ぶという姿勢を持つことが、競争力を強化していく大きなポイントになるはずです。中国が国際的には禁じ手のような手法も駆使して“オールチャイナ”で戦おうとしているなかで、第10章や最終章で述べるように、日本においても早急に国家・自動車メーカー・部品メーカー・IT企業などを含めた“オールジャパン”での大戦略の策定と実行が求められていると言えるのです。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティングおよびリーダーシップ&ミッションマネジメント。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』など。