「高く」「狭く」「熱く」売る意味とは

こうした応援されるブランドとなるためには、どんなことに取り組むべきでしょうか。事例を見る限り、次のような4要素が大切だと思われます。

(1)社会課題ドメイン
自社が取り組むべき社会課題とは何か、そのテーマや対象、エリア、期間などをはっきりと定義し、内外に宣言することです。例えば、バングラデシュに工場をつくり、現地のスタッフが生産したバッグなどの製品を販売する「マザーハウス」は、途上国の貧困問題を解決するという明確な社会課題ドメインを持っています。だからこそ顧客から応援されるのです。

(2)価値競争
「価格」ではなく「価値」の競争の視点が必要です。ポイントは、「高く」「狭く」「熱く」売ること。既存のジャンルの中で商品を開発するのではなく、自らジャンルを創造したり、モノづくりからコトづくりへ、工業製品から工芸製品へ、といった活動をしたりすることで、価値満足度を高めます。

(3)内部ブランディング
ブランディングというと、外部に対する働きかけを考えがちですが、重要なのは内部のブランディングです。スノーピークの山井太社長は、マーケティングリサーチの結果ではなく、自分の内なる声を信じることが大事だと述べています。社員をファーストユーザーとして位置づけ、ブランドを体現する社員を育てることもポイントです。

(4)ブランドコミュニティ
顧客が、インセンティブではなく、知的興味や仲間づくりなどの自発的な動機から参加する組織が存在します。形態は、SNSのフォロワーから友の会までさまざまです。マーケティング効果だけを意識せず、参加者に自己表現の機会を与えることがポイントです。

従来のマーケティングとは、企業からの市場への働きかけを指しました。しかし今日では、応援というマーケティング行為の主体はファンにあります。企業側はむしろ、受動的で行動を誘発するような姿勢が重要となります。

山川 悟(やまかわ・さとる)
東京富士大学経営学部教授
広告会社のマーケティング部門において、広告計画、販売促進計画、ブランド開発、商品開発などに携わる。専門はマーケティング論、創造性開発、コンテンツビジネス論。近著に『応援される会社 熱いファンがつく仕組みづくり』(共著)。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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