なぜツラくても人に会うのか?
【酒井】経営者にとって、新しい情報をいかに取得するかというのは、常に大きなテーマだと思いますが、大西さんは情報収集で何か意識されていることはありますか。
【大西】常務になったくらいの頃から意識していたのは、三越伊勢丹という会社が小売業、流通業のなかのひとつという位置づけではなく、業界の枠を越えて日本を代表する企業になるためにはどうすべきか、ということでした。
そのために、社長はもちろん、役員以上はどんどん外へ出て、色々な方たちに会うべきだと思い、私は率先して実行していました。大切なのは色々なカテゴリーの人に会うこと。朝でも昼でも夜でもいつでもいいので、限られた時間の中で多様な人に会うことは特に意識していました。
たとえばIT企業のような私たちが普段あまり馴染みのない業界であったり、そのとき伸びているベンチャー企業の起業家が集う会合だったり、とにかく色々なジャンルの人たちと会うようにしていました。
【酒井】あまり馴染みのない人たちと会うというのは、共通の話題も少ないでしょうし、話がかみ合わないこともある。決して楽しいことばかりではありませんよね。
【大西】正直、きついこともありますね。きついというより辛い(笑)。当時のIT業界には、ITの先端を走る20代、30代の人たち600人くらいが集まる全国大会があり、そこには毎年参加していました。あるとき、その大会のパネルディスカッションに出ることになったんです。
そのときのメンバーが、当時ヤフー副社長だった川邊健太郎さんと執行役員の小澤隆生さん、楽天の執行役員の北川拓也さん。門外漢の私が彼らと同じ席に座ること自体に無理があります(笑)。業界が違いすぎて話が噛み合ないし、ITに関してはわからないことも多く、本当に辛い。しかし、そこは断らない。そういう辛いことをあえてやることによって、自分が必ず何かを学べるわけです。
同じ会社や業界、取引先の人とばかり会って、いつも同じ話をしていても新しい発想や価値創造は生まれません。下の役員には「夜は取引先とばかり飲むのではなく外部の人と会うように」と言っていました。あえて未知の世界へ飛び込んでいくことが大切だと思います。
ただ、気をつけなければならないのは、人と会うときには、情報をインプットしようとするだけではなく、相手に有益な情報をいかにアウトプットするかということです。先方にもう一度、大切な夜の2時間を割いて会いたいと思ってもらうためには、それなりのアウトプットをしていかないと関係は続かないと思います。