注意しても「あんたの言うことは聞かない」

【酒井】日本にも、世界に通用するお洒落で格好いいエグゼクティブが多く出てきてほしいですね。しかし一方で、男性がファッションにこだわるとどうも軽く見られてしまう傾向もある気がしますが、どうですか?

マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏

【大西】そういう場合もありますね。私が伊勢丹(当時)に入社した頃は、男性ファッションといえばトラッドしかなく、私はJプレス、ポール・スチュワート、ブルックスブラザーズなどのスーツを着ていました。

それが入社3年目頃に、メンズファッションにおいてもデザイナーズブランドが流行り出しました。私が当時いた「男の新館」(メンズファッション専門の売場)の1階に、BIGI、ニコル、Y’s、コムデギャルソンが入りまして、これは業界をけっこう揺るがしたんです。そのとき、私は「男の新館」1階の商品担当となっていました。

あるとき、担当ブランドのひとつであったY’sの店長を注意したことがありました。彼は、Y’sの良くも悪くも「ぶっ飛んだ」服を着て店頭に立っているのですが、接客の仕方がとても雑だったんです。

このとき彼に言われたのは、「あんたの言うことは聞かない」と。なぜかと聞くと、「自分たちはファッションを売っているんだ。ファッションを売るには、その洋服を着たときの気持ちを知らないといけないけれど、それは自分で着ないかぎりわからない。あんたはそんなトラッドの服を着ているからこっちの気持ちはわからないはずで、そんな人の言うことを聞きたくない」と言われたんです。

当時は内心、「えー!」と驚きましてね。それをきっかけに私はコムデギャルソンの服を社長になるまで着ていました(笑)

一方で、自分が売るブランドの服を着て、お客様の気持ちになる点はとても大切だと思うのですが、ファッションだけが先行し、接客というベース部分が崩れるのはおかしい。同じように、経営者の方がどんなにお洒落をしても、経営のマネジメントが伴っていなければそれはやはり本末転倒だとは思います。