上司がほしいのは「やる」という意思

誰のためにもならない“リアル”はいらない――。かつて上司から言われた言葉です。事実を述べることは、時に相手を当惑させ、不安や不快感を与えることすらあります。

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アポを失念した揚げ句「寝坊したので遅れます」と相手に正直に述べることは、はたして誰かのためになる“事実”でしょうか。相手は不愉快になり、こちらの信用は落ちるだけ。それより「トラブル対応に追われていまして」とウソを述べてでも謝罪し、再スケジュールを依頼するほうが互いの信頼関係の維持には役立ちます。

新規の仕事を任され「やったことがないので、できるかわかりません」と実情をそのまま述べるのも、上司に不安感を与えるだけです。上司が欲しいのは「できるかどうか」の確証ではなく「やる」という意思なのです。ここは「やらせてください!」と意欲を見せることが正解です。

未来のために「ストーリー」をやむなく作る

「ウソはダメだが、ハッタリはいい」。これも若いころに聞き心に響いた言葉です。働くうえでは多少のハッタリという名のウソ、言い換えるならチャレンジ精神がなければ、新しいチャンスを手にすることはできず、能力を伸ばせません。もし世の中に「許されるウソ」が存在するならば、それは「未来をよくするためにやむなく作るストーリー」といえるでしょう。ただし自分以外の他者の未来もよくするウソであることが条件です。自分の未来はよくなるが、他者が不利益を被るなどの詐欺まがいのウソはこの範疇には入りません。

では反対に「許されないウソ」にはどのようなものがあるでしょう。これまで体験したウソのなかで、一番たちの悪かったものがあります。あるリフォーム会社で管理職として働いていた際、部下の1人が任された顧客の工事現場を放り出し、しかもそれを上司である私に報告していなかったのです。ホワイトボードには「○○様邸」と行き先が書き込まれているのに、実際は放置状態で工程は完全にストップ。進行状況を確認するために立ち寄った私がお客様に罵倒され初めて事態を知りました。

職場でウソをつかれる一番の弊害は、周囲の人間の気分が悪くなることではありません。100歩譲って上司たる私の顔がつぶれるのもいい。しかし、会社の信用に傷をつけ、場合によっては多額の損害に発展する可能性があるのが最大の問題です。

このときも発端は些細な行き違いで、お客様からのクレームも自ら処理できると自分の力量を過信していたようです。しかし自らの力で収拾できない事態に発展した段階で勇気を出して報告すべきだったのです。自分を守るためのウソ、自分を大きく見せるための虚勢のウソ、これらが一番世の中で多く存在する「許されないウソ」といえるでしょう。