「自分には嫌いな子がいる」と悩む子に、どんな声をかければいいだろうか。麹町中学校の工藤勇一校長は「『みんな仲良く」という理想論を押し付けるより、心と行動は切り分けて行動をすることを伝えるべきだ」という——。
本稿は、工藤勇一『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
「みんな仲良く」が子どもを苦しめる
息子が幼稚園に通っていた頃、彼が「自分には嫌いな子がいる」と悩んでいることがありました。息子からすれば、大好きな母親はみんなと仲良くしているのに、同じようにみんなと仲良くできない自分が苦しかったのでしょう。
さらに、幼稚園では「みんな仲良く」と日常的に言われていたようですから「嫌いな子がいる自分は、だめな人間だ」と悩んだようなのです。幼稚園に行きたくないとまで言っていました。
そこで私は、五味太郎さんの『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社)という本を使いながら、「お父さんにも嫌いな人がいるよ。お母さんにだって、嫌いな人がいるんだよ」と伝えたのです。
息子は目を大きく見開き絶句していました。私と話したあとに妻にも「お母さんにも嫌いな人がいるって本当?」と、確認しに行ったほどです。最初は信じられないという感じでしたが、そのうち安心できたようで、元気に幼稚園に通えるようになりました。
こんな小さな子でも「立派でいなければならない」という思いを背負って生きているということが、私には衝撃的でした。
この出来事以降、教師としてもこのような思いを生徒に背負わせてはいけないと改めて肝に銘じ、接し方がずいぶん変わりました。「こうでなくてはならない」ということが伝わってしまうような言葉は、使わないようにしたのです。