※本稿は、真山仁『疑う力』(文春新書)の一部を再編集したものです。
国のバラマキ政策で得をするのは誰なのか
情報を耳にしたときに、「それは誰が言っているのか」、そして、「それによって誰が得をするのか」という発想を持つようにしてください。
たとえば子ども手当を出しましょうという話が政権から出てくる。それによって得をするのは誰なのか。一見、手当を受ける子ども自身のように思えますが、実際は子ども本人ではなくて親にお金が入ります。
だからと言って、親は本当に得をするのか。子どもがいない人はどうなるのか。最終的に得をするのはこういう政策を発表した政権で、子どものいる親の歓心を金で買っているんじゃないか。
「誰が結局は得をするのか」を考えるためには、一歩引いたところから全体の構図を見る必要があります。そうじゃないと、隠れた関係性が見えてこない。データも画像も映像も、提示した側の思惑や意図に沿って出されています。すぐに目に見えるように分かりやすく提示されたものがいかに怖いかを知っておくべきです。
世の中に流れているニュースを見ていると、矛盾が多い。疑う目を持たないと、それらが前提となって話が進んでいってしまいます。世の中を見渡してそれぞれのニュースを糸でつなぐことをしない限り、そのことに気づきようがありません。
ミステリー作家が「この設定で騙されてほしい」と、コントロールをしている以上に、もっとずるい誘導を日常的にされていて、あっさり騙されてしまっているとしたら、悔しいですよね。
騙されないために「ミステリー小説」が役に立つ理由
「まんまと騙されたのは、冒頭に出てきた前提を本当のことだと完全に思い込んでしまったせいでした」(太字は受講生たちの事前レポートより一部抜粋、以下同)
小説では、始め方がとても重要です。冒頭で、読者をミスリードできたら、作家の勝ちと言っても過言ではありません。また、どんなシチュエーションから始めるかにも、知恵を絞ります。インパクトのある事象に、人の目は向く。そのままその前提となる事象を受け入れてしまったら、その時点で、読者を誘導しやすくなります。
だから、読者としては、「これはどういう意図だろう」と常に考える姿勢が大切です。